大豆ほど変幻自在な食品はないでしょう.枝豆や節分の豆といったシンプルなものから,納豆,味噌,醤油,豆腐,湯葉などの加工品まで,身近すぎて毎日口にしていることさえ忘れてしまうほど大豆は我々の生活に根付いています.

 ダイズGlycine maxは元来野生のツルマメG. max ssp. sojaを改良して作られたと考えられている農作物です.もともと食用に改良し誕生した植物ですから,黄大豆,青大豆,鞍掛豆,黒大豆など品種が多岐に渡り,きな粉用,納豆用,煮豆用,炒り豆用など用途により細かく使い分けられています.

 ところで,明代に李時珍が著した本草書『本草綱目』は発刊後すぐに我国にもたらされ,日本でも印刷されるなどして,漢方生薬のみならず民間療法にも大きな影響を及ぼしました。今回からしばらくはこの『本草綱目』の記載内容を中心にまとめてみたいと思います.

 『本草綱目』に記載されている大豆由来の品目は,大豆,大豆黄卷(もやし),黄大豆,大豆豉,豆黄,豆腐の六種です.また大豆の項において「大豆には黒,白,黄,褐,青,斑の數色あって・・・」と記載されていて,古くから多くの品種が存在したことが窺えます.しかし黒いもののみが「烏豆」として薬用にされていたようで,黄色のものはもっぱら豆腐や油,醤を造るのに用い,その他の種類はただ豆腐にしたり,炒って食したりすると記載されています.また「豆には五色あってそれぞれ五臓を治すものだが,黒豆だけが水に属し,性寒にして腎に入る効果が多い」とあり,黒豆が他の大豆と一線を画していることが分かります.気味は甘,平で,腎の病を治し,水を利し,気を下し,諸風熱を制して血を活し,解毒作用があると李時珍は述べています.

 日本の民間薬としての大豆も,主に黒大豆が利用されます.薬効の類似の他,咬み傷には搗いた葉を用いることや甘草と共に用いることにより毒を解す効果が増強されるなど,『本草綱目』の影響が強く見られます.日本において生産量,品種共に最も多いのは黄大豆であるものの,年の初めに一年の健康を願うおせち料理では,黒大豆が用いられることも黒大豆の効能の高さを表しているのかもしれません.

 一方,江戸時代に書かれた『本朝食鑑』」に興味深い記述があります.黒大豆についての記載内容は『本草綱目』とほぼ同じであるにも関わらず,日本では黒大豆をほとんど用いず,中国ではほとんど使用されない白大豆が主要であると書かれているのです.その理由として白大豆が日本古来の調味料「味噌」の原料となることが挙げられ,造醸類の項には独立して「味噌」の項があります.白大豆の主治が気分をおだやかにし,腹中を寛げ,腸によいということだけしか書かれていないのに対し,味噌については腹中を寛げ,気を益し,脾胃を調え,心腎を滋し,吐を定め,瀉を止め,四肢を強くし,髪を黒くし,皮膚を潤し・・・云々と非常に幅広い効能が記されています.大豆は栄養素を豊富に含んでいるのですが,組織が固く繊維が多いために消化,吸収しにくいという欠点があります.消化率は加工により上昇することが知られていますが,当時の日本人は白大豆を味噌にすることにより効能が高められることを経験的に認識していたのでしょうか.

 近年一般的にいわれる大豆の効果としては,大豆タンパクのコレステロール低減作用,大豆イソフラボンによる骨粗しょう症の予防,大豆オリゴ糖の整腸作用などが挙げられます.また黒大豆はアントシアニン系色素を含むために健康によいとされています.これらは全て含有成分に基づいた西洋医学的な説明ですが,中国医学的にも例えば骨粗しょう症は腎の衰弱に基因します.

 中国には「可以一日無肉,不可一日無豆(肉を食べない日があっても構わないが,豆を食べない日があってはいけない)」という諺があるそうです.黒大豆のみならず,日本古来の機能性食品として味噌などに加工される白大豆についても,さらなる有用性の解明が期待されます.この機会に,豆類の効用を見直してみたいと思います.