基源:ツツジ科(Ericaceae)の Arctostaphylos uva-ursi Spreng. の葉

 ストロベリー,ラズベリーやブルーベリーなど,科をまたいでベリー(berry)と総称される小果実群があります.ツツジ科のブルーベリーと近縁な植物にコケモモ Vaccinium vitis-idaea L. やツルコケモモ Vaccinium oxycoccos L. があります.これらの果実もそれぞれクランベリー(cranberry),カウベリー(cowberry)と呼ばれ,ジャムなど食用として利用されています.このコケモモですが,日本では果実ではなく葉を昭和初期に薬用として一時的に使用したことがあります.

 ウワウルシはツツジ科クマコケモモ Arctostaphylos uva-ursi (L.) Spreng. の葉に由来する生薬です.ウワウルシという名前は「クマのブドウ」を意味する uva-ursi を日本語読みしたものです.属名の Arctostaphylos も「クマのブドウ」を意味しています.英語名はベアベリー(bearberry)で,和名同様「クマ(bear)」が付いています.クマがこの果実は食べることに由来するようです.クマコケモモは北半球の寒冷地や高山地帯に分布する植物です.常緑の小低木で,茎は地上に伏しています.葉は互生し,短い葉柄があり,基部はくさび形,先端は鈍頭か又は凹形,長さ10〜30mm,全縁で革質です.葉の上面は濃い緑色,光沢があり,下面は薄緑色,編状脈が顕著です.日本には自生していません.ヨーロッパでは古くから果実を食べていたようですが,葉に関しては,薬効が明らかになり生薬として使用されるようになったのは19世紀前半と言われています.その後日本にも紹介され,日本でも使用されるようになりました.日本薬局方には第1局から現在の16局に至るまで,継続して収載されてきました.

 ウワウルシは尿路殺菌剤として腎盂炎,尿道炎,膀胱炎などに利用されます.葉の煎じ液を服用する場合もありますが,ほとんどはウワウルシ流エキスとして利用されます.ウワウルシ流エキスとはウワウルシの粗末から熱水抽出エキスを作成し,タンニン類を一部除去して製したものです.ウワウルシにはアルブチン(arbutin)を主成分とするフェノール配糖体類やタンニン類が含まれています.アルブチンが体内で加水分解されてヒドロキノンになり,これが尿路殺菌作用を示すとされています.ウワウルシを流エキスにするのは,不溶性タンニンを除いて水溶性のアルブチンを有効に利用することも一つの理由です.ただ,アルブチンは摂取量や服用期間によっては不快感,嘔吐などを引き起こすことがあるので使用にはこの点を注意する必要があります.

 最近は,ウワウルシを化粧品に配合することが多いようです.これはアルブチンがアミノ酸のチロシンと部分構造が類似しているためです.肌の色素沈着はチロシンが酵素チロシナーゼにより反応を繰り返して生成するメラニンによるものです.アルブチンがチロシンの代わりになることから,チロシナーゼの阻害活性を持つことが明らかになりました.このような理由で美白効果が期待され,ウワウルシの使用量も増えてきているようです.

 しかし日本には自生がないため,ウワウルシは100%輸入に依存してきました.昭和初期,諸外国との関係がギクシャクした時代に輸入が滞り,一時的に高山植物のコケモモ葉を代用にしました.コケモモ葉にもアルブチンが含まれていますから十分同等な効果が期待できました.これに伴いコケモモは第5改正日本薬局方に収載され医薬品の仲間入りをしました.しかしコケモモ葉の煎剤は味が悪かったようで,次第に利用する人が少なくなっていきました.野生品を採取していたことから自然保護の観点からも利用されなくなり,日本薬局方からも削除されました.

 現在ではコケモモはジャムなどの食用目的で果実のみが利用されています.一方,クマコケモモの果実はあまり味が良くないらしく,あまり利用されていません.葉を利用せずに果実を利用するコケモモとその逆のクマコケモモ,上手に役割分担ができているようです.

 

(神農子 記)