基源:キク科(Compositae)のムラサキバレンギク Echinacea purpurea Moench, E. angustifolia DC., E. pallida Nutt. の全草,または根および根茎を乾燥したもの

 「エキナケア」または「エキナセア」という名称は原植物の属名をそのまま日本語読みしたものですが,この生薬は近年,サプリメントとして日本でも多く流通しています.元来,エキナケアはアメリカ先住民が歯痛,感冒,伝染病などに使用していたもので,特にグレートプレインズ地方では蛇咬傷から悪性腫瘍の治療まで幅広い用途に使用されていました.19世紀末にはヨーロッパに紹介され,栽培もされるようになりました.ドイツでの薬理研究では免疫賦活,抗菌,抗ウイルス,抗炎症などに有効とされ,感染症の治療薬として認知されました.現在,ヨーロッパ各国では医薬品として,アメリカではサプリメントとして流通しており,売上の上位になっています.原植物は北アメリカで多く栽培され,ヨーロッパや日本市場は輸入品が主です.

 エキナケアの原植物の3種(E. purpurea, E. angustifolia, E. pallida)は北アメリカ原産の多年生植物です.夏から秋にかけて開花します.頭花は円錐形の筒状花とその周りを囲む一重の舌状花から構成されています.舌状花は主に紫色からピンク色で,下向きに垂れて咲きます.「バレンギク」という和名はこの頭花の形を馬簾(バレン;纏(マトイ)の周囲に房のように垂れ下げた細長い飾り)に見立ててつけられたものです.原植物の3種は植物形態が類似しているので混同される場合があります.E. purpurea はムラサキバレンギクと呼ばれ,日本の植物園などで栽培されているのは主にこの種です.3種類の中では最も草丈が高く60〜180センチになります.卵形の葉,2〜4センチの舌状花,黄色の花粉をつけるという特徴があります.E. angustifolia は3種類の中では最も草丈が低く,10〜60センチです.披針形の葉,2〜4センチの舌状花,黄色の花粉をつけるという特徴があります.E. pallida は3種類のうち最も大きな舌状花を持つ種類です.草丈30〜100センチです.披針形の葉,4〜9センチの舌状花,白色の花粉をつけるという特徴があります.薬用部位は E. purpurea は全草ですが,それ以外の2種はいずれも根および根茎を使用します.ヨーロッパで「エキナケア根(エキナセア根)」と称されている医薬品はE. angustifoliaの根に由来する生薬です.

 エキナケア根は太さ2センチ程,不規則に分枝しています.表面は灰褐色,明瞭な縦縞や皺があります.横断面には薄い皮層(1ミリ以下)と放射線状の縞が貫通する黄白色の木部が観察できます.弱いですが独特な匂いがあります.味ははじめ弱い甘味と芳香性があり,次いで辛味ないし苦味,収れん性があります.

 エキナケア根の正品はE. angustifolia に由来する生薬ですが,E. purpureaE. pallidaに由来するものとの鑑別が困難です.正品には化合物 echinacoside および cichorienic acid が含まれています.文献的には E. purpurea にはechinacoside が含まれていないこと,E. pallida には cichorienic acid が含まれていないことで区別可能ということになりますが,実際は明確な区別が困難なようです.

 エキナケア根の実際の使用方法は,茶さじ半杯に熱湯を注ぎ,約10分後に漉したものを服用するというものです.カゼをひいた時,また身体の防御力を高めるために用事調製して1日数回服用します.製剤化された製品を使用することも多いようです.安全性については,適切に短期間使用する場合,経口摂取であれば問題ないようです.しかし長期間の摂取については情報がなく,ドイツでは使用限度期間を8週間としています.

 エキナケア(エキナケア根)は単味での使用以外に薬剤や他のハーブと組み合わせて抗生物質の量を減らす目的で使用されています.鑑別の問題が明らかにされれば研究も進むことが期待され,有用性が広がる生薬でしょう.

 

(神農子 記)