基源:マメ科(Leguminosae)のアラビアゴムノキAcacia senegal Willd. の幹及び枝からの分泌物を乾燥したもの.

 アラビアゴムノキAcacia senegal Willd. はアフリカ原産で,6m程度にまで成長する棘の多いマメ科の木本植物です.アラビアゴムが属するアカシア属は,新エングラー分類体系ではマメ科(Leguminosae)ですが,クロンキスト体系ではネムノキ科(Mimosaceae)に属し,また,DNA解析による被子植物系統グループ(APG)の最新の分類(APGⅢ))ではマメ科(Fabaceae)に入れられます.このアカシア属やオジギソウ属の植物は,新エングラー体系ではネムノキ亜科に分類され,マメ亜科に特徴的な蝶形花とは異なり,10本以上の雄蕊が目立つ放射相称の花を有します.

 アカシアといえば蜂蜜や並木などが思い浮かびますが,そのアカシアはニセアカシアRobinia pseudoacacia L.(ハリエンジュ)のことで,アカシア属ではありません.一方,アカシア属のフサアカシアやギンヨウアカシアのことを「ミモザ」と呼ぶことがありますが,本来ミモザはオジギソウ属の名(Mimosa)で,異なる一群です.

 アラビアゴムは日本薬局方には初版(JP1)から収載され,現行の第16改正日本薬局方まで継続収載されています.医薬品としての主たる用途は,丸剤や錠剤の結合剤です.アラビアゴムノキから得たものが正品ですが,以前は他のアカシア属植物や近縁植物から得られたものも流通していたとされ,Vachellia seyal (Del.) P.J.H.Hurter, V. horrida (L.) Kyal. & Boatwr, V. nilotica (L.) P.J.H.Hurter & Mabb. (=Acacia arabica), Acacia gummifera Willd. などの分泌物も用いられていたようです.薬用としては,乳化剤,安定剤および結合剤の他に,皮膚の軟化薬や皮膚や粘膜の保護など,また皮膚感染症に用いられることもあるようです.

 アラビアゴムの別の重要な用途は接着です.植物の腊葉標本を作製する際に,植物体を台紙に固定する紙の接着剤として使ったことがある方も多いのではないでしょうか.また,顕微鏡のプレパラートの封入剤の基材として用いられることもあります.天然由来でのり(糊)に用いられるのものとしては,デンプンやアラビアゴムなどの多糖類,トウダイグサ科の植物パラゴムノキHevea brasiliensis (Willd. ex A.Juss.) Müll.Arg. などから得られるイソプレンなどの天然ゴム,ニカワやゼラチンなどのタンパク質,アスファルト(炭化水素類)などがあります.接着の機構については諸説がありますが,多糖類の場合,紙などの繊維間に入り込んで絡み合わせてとめるという説がもっともらしく聞こえます.多糖類やニカワはお湯などで処理すれば簡単にはがすことができ,素材を傷めません.バイオリンなどの弦楽器の組み立てにニカワが使われるのも,後に修理することを考えてのことだそうです.このように接着剤は近年の合成接着剤をも合わせ,用途に合わせて使い分けられています.

 アラビアゴムの接着性は,アラビアゴム全体の90%を構成するアラビノガラクタン(アラビノースとガラクトースで構成される多糖類)によるものと考えられます.トラガント(マメ科の植物Astragalus gummifer Labill. や他の同属植物の幹から得た分泌物)やモモなどサクラ属(Prunus)植物の幹からの分泌物にも同様に多糖類が含まれています.一方,アラビアゴムは高い接着性のほかに乳化性を示すことも知られています.アラビアゴムの乳化剤としての性質はAGP(Arabinogalactan protein complexアラビノガタクタンタンパク複合体)に由来するとされています.AGPはアラビノガラクタンがタンパク質のヒドロキシプロリンに富む部位に結合したもので,糖鎖の割合は分子量ベースで90%程度だそうです.

 アラビアゴムのこの乳化性と接着性を利用して,食品添加物として増粘多糖類や増粘安定剤などの表記でレトルトのソースやドレッシングなどに加えられています.また,皮膜を形成する性質もあり,あられやふりかけにも用いられています.このようにアラビアゴムの名は余り実生活では目や耳にしないものですが,実際は医薬品・接着剤・食品と多岐にわたり重要な役割を果たしているのです.

 

(神農子 記)