基源:マチン科(Loganiaceae)の Strychnos nux-vomica L. の種子

 マチン科は毒性が強い植物を含む分類群です。その代表格がホミカStrychnos nux-vomica L. です。ホミカはストリキニーネやブルシンという非常に毒性が強いアルカロイドを含んでいます。種子1個で致死量を含み、全身筋肉の強直性痙攣を引き起こすという他に例を見ない毒性を示します。しかし、ホミカは含まれるアルカロイドに中枢神経興奮作用があり、薬用植物として重要なものです。

 ホミカはインド、スリランカ、ミャンマー、インドシナ半島、スマトラ、ボルネオ、オーストラリア北部に分布する常緑の高木です。葉は有柄で対生し、全縁、革質で光沢があり、明瞭な3行脈があります。複集散花序に白い円筒形の花をつけ、果実はピンポン球ほどの大きさで成熟すると橙色に変わります。1個の果実に3〜8個の種子が入っており、この種子をホミカまたは馬銭子と称して薬用にします。種子の大きさは径1〜3センチ、厚さ 0.5 cm 程の円盤状、淡灰褐色で中央部から周辺に向かう光沢のある伏毛で密に覆われています。質は極めて堅く、においはなく、味は極めて苦く残留性があります。大きく肉厚で、質が堅い物が良品とされています。落果から得た種子は品質が劣るとされていますが、これはおそらく虫食いなどの影響だと思われます。

 馬銭子という名称は、種子が馬の連銭馬の模様に似ていることから名付けられました。『本草綱目』では「番木鼈」の名称で収載されています。番木鼈とは「西域の木鼈子」の意味で、『本草綱目』には直前に「木鼈子(モクベツシ)」が説明されています。木鼈子はウリ科のナンバンカラスウリ Momordica cochinchinensis の種子に由来する生薬です。Momordica 属植物は蔓性であることからホミカの原植物と明らかに異なり、果実の大きさや種子の形も異なっています。ホミカはもとはアーユルヴェーダ薬物で,シルクロードを介して中国へ伝えられたものと考えられます。李時珍は果実や原木の実物を見る機会がなかったらしく、『本草綱目』では続けて「蔓生のもので、夏黄色の花を開き、七八月実を結ぶ、その実は栝楼のようで、生では青く熟すれば赤くなる。やはり木鼈のようでその核は木鼈よりも小さく、色が白い」とナンバンカラスウリと混同した記載をし、蔓草の仲間に分類してしまっています。

 ホミカの特記すべき薬効として、顔面神経麻痺の治療と重症の筋無力症があります。顔面神経麻痺の治療には、生薬を切って薄片にした後、患部に貼る、という外用での方法があります。7〜10日で1回貼り替え、正常に戻ったらやめます。軽症であれば2回の交換で治癒するそうです。15,000例のうち約80%に有効であったという報告があります。また重症の筋無力症の治療には次のように減毒して使用する方法があります。まず生薬を水に10〜14日間浸し、皮を去り、煮立った落花生の油の中に入れて弱火で約30分あまり加熱します。キツネ色になるまで待って取り出し、タルクの中へ入れて油を吸い取らせ、10〜14時間のちにタルクをふるい落とし、再び清水で1回洗い、乾くのを待って粉末にして服用するそうです。筋力が徐々に回復し、握力も増加し自分で生活できるようになった例が報告されています。

 ホミカは明代の『本草原始』に「鳥がその毒にあたれば麻痺とひきつけがにわかに起こり死ぬ。犬がその毒にあたれば断腸の苦痛を得て死ぬ。もし誤ってこれを服用すれば人の四肢を拘攣(強直やひきつり)させる」と記載されたほどの毒物です。日本には自生がないので生薬を誤って口にする以外は中毒する危険性はありませんが、マチン科に属する注意すべき栽培植物としてカロライナジャスミンがあります。香りの良いハゴロモジャスミンと混同されやすいですが、カロライナジャスミンは非常に毒性が強い植物ですので名前に惑わされないようにしましょう。間違っても、ジャスミンティーにしてはなりません。

 

(神農子 記)