基源:ユリ科(Liliaceae)のAloe ferox Miller又はこれとA. africana MillerあるいはA. spicata Bakerとの雑種の葉から得た液汁を乾燥したもの.

 「アロエ」と聞くと,「医者いらず」とも呼ばれて観賞用植物として流通しているキダチアロエAloe arborescens Mill. を思い浮かべる方が多いかもしれませんが,日本薬局方にはキダチアロエは収載されていません。

 アロエ属植物は,アフリカのサハラ砂漠以南やマダガスカル島,アラビア半島などを中心に約350種が分布し,多くは園芸的価値が高い一方で,ワシントン条約によって流通が規制されています。薬用に用いられる代表的なAloe feroxは古くから薬用効果が知られていたため,アラビア商人やスペイン人によって世界各地に運ばれ,亜熱帯地域などでは帰化し定着したようです。

 アロエはおよそ6000年も前のエジプトの壁画に刻まれており,最も古い薬用植物の1つと考えられています。紀元前1500年頃に成立したエジプト医学の最古の医学文献である『エーベルス・パピルス』にはアロエを含む12の処方が記載されています。火傷の治療のほか,センナやヒマシ油などと同様に緩下薬として用いられたようです。

 薬用のアロエは産地によって数種類に分けられます。日本で最も多く消費されているのは「ケープ・アロエ」と呼ばれるもので,A. feroxの葉,あるいはA. feroxA. africana あるいはA. spicata との雑種の葉から得た液汁を乾燥したもので,現行の日本薬局方に規定されているのはこのものです。生薬は黒褐色から緑褐色を呈し,破砕面はガラスのように光沢があり,薄片が半透明であることから透明アロエと呼ばれることもあるようです。「ソコトラ・アロエ」と呼ばれるものはA. perryi Bakerに由来するもので,これは原植物がイエメンのソコトラ島に自生することに因みます。「キュラソー・アロエ」と呼ばれるものはA. vera L. などに由来し,キュラソー島を主産地とし,西ヨーロッパでよく用いられます。その他,ナタール・アロエやボンベイ・アロエなどが知られています。

 第十六改正日本薬局方では,アロエの項に「本品は定量するとき,換算した生薬の乾燥物に対し,バルバロイン4.0%以上を含む」と規定されています。バルバロインはアンスロン骨格の配糖体ですが,腸内細菌(Eubacterium sp.)による代謝を受けて活性成分であるアロエエモジンに変換されることが知られています。

 アロエの産地や現植物による化学的な違いも明らかになっています。「ナタール・アロエ」はホモナタロインを含有しますが,ケープ・アロエやキュラソー・アロエは含有しません。また,7-ヒドロキシアロイン誘導体はキュラソー・アロエに含まれ,ケープアロエには認められません。一方で,クロモン誘導体のアロエニンAはキダチアロエのみが含有するとされています。

 近年,食品中の有用成分の研究が進んだ結果,医薬品と食品の区分があいまいになりつつありました。そこで,1971年に厚生労働省が「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」の通知を行ない,医薬品と食品の区分(食薬区分)が明示されました.現行の食薬区分において,アロエの取扱は複雑です。すなわち,アロエ(キュラソー・アロエ,ケープ・アロエ)の葉の液汁は「専ら医薬品として使用される成分本質」(すなわち食品として使用できない)ですが,アロエの根・葉肉ならびにキダチアロエは「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」(すなわち食品として利用できる)とされています。

 アロエは日本へは鎌倉時代に伝来したとされています。多くの方がアロエベラやキダチアロエを食べた経験があることでしょうし,現在でも多くの家で栽培されているのを見かけることから,もはや日本の民間薬と言っても過言ではないでしょう。アロエからすれば,原産地から遠く離れた極東の地でこのように重用されるとは思ってもみなかったことでしょう。

 

(神農子 記)