基源:ユリ科(Liliaceae)のナルコユリPolygonatum falcatum A. Gray,カギクルマバナルコユリP. sibiricum Redouté,P. kingianum Collett et Hemsley 又はP. cyrtonema Huaの根茎を乾燥したもの

 アマドコロ属は、北半球の冷温帯を中心に約60種が分布し、ヒマラヤから中国の四川省や雲南省にかけての地域で多様化しています。そのため、中国には39種が分布し、そのうち20種が固有種とされています。『日本植物誌』にはアマドコロ属として11種が記載されていますが、このうちの数種は雑種であることが指摘されています。以前の分類体系ではアマドコロ属はユリ科(Liliaceae)に含まれていましたが、DNA解析に基づく最新の分類体系(APG)ではキジカクシ科(Asparagaceae)に分類されるようになりました。

 ところで、アマドコロ属の学名Polygonatumは「節が多い」という意味のギリシャ語に因みます。これは、ナルコユリやアマドコロP. odoratum (Mill.) Druce var. pluriflorum (Miq.) Ohwiなどのアマドコロ属植物が毎年根茎の新しい場所から茎を出すため、成長した株の根茎には茎の跡が多く連なることを指していると考えられます。

 黄精はナルコユリなどの根茎を乾燥したものであり、『第十五改正日本薬局方』に初めて収載されました。類似する生薬に玉竹(ギョクチク)あるいは萎蕤(イズイ)があります。玉竹はアマドコロなどの根茎を乾燥したものとされていますが、黄精と同じアマドコロ属の植物に由来し、区別は簡単ではありません。一般的には、黄精は結節状で塊状・連珠状であり、玉竹は細長く太さが均一であると言われています。また、葉が互生する植物種の根茎を玉竹とし、対生・輪生するものの根茎を黄精とする説もあります。日本には葉が互生するものしか自生しないため、根茎が比較的太くて結節のあるナルコユリの根茎が黄精の代用品とされたようです。『古方薬品考』には、生姜の形状に似たもの(生薑様:しょうきょうで)を黄精とし、竹節人参(トチバニンジンの根茎)に似たものを地黄様(じおうで)と呼んで萎蕤として用いるとあります。余談ですが、当時の国内に流通していたジオウはチクセツニンジンに似て細長いことから、根茎が肥大するカイケイジオウではなくアカヤジオウ由来であったことが推察されます。

 黄精は韓国でも用いられ、1990年頃の市場品を調査したところ、多くはカギクルマバナルコユリとアマドコロに由来したそうです。また、この頃の国内市場では、黄精という名でアマドコロの根茎が流通していたことが確認されており、黄精と玉竹の混乱がうかがえます。品質の安定化が叫ばれる現在では、正品が用いられていることと思います。

 黄精ならびに玉竹は、共に味の甘いものが良く、苦味を呈するものは薬用に向かないとされています。共に薬効が人参とよく似た補益薬ですが、黄精は脾や腎を補益するのに対し、玉竹は肺や胃を滋潤します。また、黄精は性質が平であるのに対し、玉竹は微寒であり、燥熱による口渇、咳嗽などに効果があるとされます。黄精は日本国内で毎年約17トンが消費されていますが、玉竹はあまり流通していないようです。なお、玉竹が配合される処方には養胃湯や麻黄升麻湯があります。

 民間的には、アマドコロの根茎を氷砂糖とともに焼酎につけて熟成させたものが滋養効果を期待して用いられています。一方、生薬の黄精も民間的に薬用酒とされるほか、主に栄養ドリンク等に配合されて用いられています。江戸時代には東北地方から黄精売りが黄精(ナルコユリの根茎)の砂糖漬けを江戸に売りに来るほど一般的であったようで、「切見世へ黄精売りは引き込まれ」という川柳も詠まれています。また、俳人の小林一茶は黄精を好み、墓参りのたびに黄精を掘ったという記録が残っています。神農子も疲れが取れないときは黄精の砂糖漬けを作って食してみたいと思います。

 

(神農子 記)