基源:ウコギ科(Araliaceae)の Panax quinquefolius L.の根である。

 人参の同類生薬に「広東人参」があります。「広東」とは中国の広東省のことですが、産地は広東省ではなく北米です。このことから別名「アメリカ人参」、「西洋人参」、「西洋参」などとも称されます。「広東」は取引された生薬市場から付けられました。最近の香港市場ではもっぱら「花旗参」の名称で流通し、原産地のアメリカ国旗に由来するそうです。

 17世紀頃、ヨーロッパには中国の人参の優れた効能が伝わっていました。フランス人宣教師Pierre Jartouxはタタール(Tartary、韃靼:モンゴル高原から東ヨーロッパまでの地域)を旅行し、人参に関する詳細な調査報告を記載しました。それを読んだカナダ(当時は新大陸)在住のフランス人宣教師Joseph-Fransois Lafitauは、タタールの人参の原植物の自生地と同様の自然環境がカナダにもあることから、この地にも人参が産する可能性を考え調査を開始しました。その結果、Lafitauが雇ったモホーク(Mohawk)族の女性がイロコイ族領内で治療薬として良く知られていた薬物を持って来ました。これがアメリカ人参、すなわち「広東人参」の発見でした。このことが公表されると中国の人参買い付け商人がカナダに押し寄せました。アメリカ人参は先住民により大量に収穫され中国へ輸出されました。中国ではその時期の本草書『本草綱目拾遺』に「西洋参」という名称で収載され、「洋参は遼東に似た白皮泡丁のもので、味は人参に類するものだが、ただ性が寒だから糯米飯上で蒸して用いるが宜し。甘、苦であって陰を補し、熱を退ける」と記載されています。人参と同様によく使用されていたようです。

 広東人参の原植物Panax quinquefoliusはウコギ科の多年生草本で、葉は5枚の小葉からなる掌状複葉で茎に数枚輪生するなど、オタネニンジンP. ginsengやトチバニンジンP. japonicusに良く似た形態を有しています。根茎は短く、根は紡錘形で時に分枝します。今では野生品はごく稀で、昨今は主にアメリカ、カナダ、フランス、中国などで栽培され、通常は3〜6年の栽培株を収穫して加工しています。

 生薬は、一般に長さ2〜6センチ、太さ0.5〜1センチの紡錘形またはやや円柱形ですが、高級品ではさらに大型のものもあります。表面に細い横じわと縦じわがあることが特徴とされます。根の横断面は淡黄色で褐色の形成層が確認でき、赤褐色の樹脂管が多数散在しています。製品は太さが平均しており質が堅くて軽く、表面の横じわが緊密で香りの濃いものを良品とします。現在は稀ですが野生のものを上等品とします。

 広東人参の鑑別方法として『増訂偽薬条弁』に次のような記載があります。要約すると「西洋参の真偽を鑑別する場合、必ず気味、形色、性質を弁別しなければならない。味は噛むとはじめは苦いがしばらく含んでいると甘味があわさり、口の中が非常に爽やかになり、気味が久しく口の中に留まっている。偽物は芳しい香気がなく、かむとはじめはまず苦く、そのあとに甘くなるが、数回飲み込むと味が淡くなって無味になり、気味は真物のように口中に久しく留まっていない」とあります。実際には鑑別が困難で、小型の栽培人参を加工した偽品も出回っているようです。

 薬効について、現代中医学では「補気養陰・清肺火・生津液の効能をもち、気陰両虚の有火に適する、熱病気陰両傷の煩倦口渇や津液不足の口乾舌燥、陰虚火旺の咳喘痰中帯血などに用いる」とされます。成分研究から人参同様のginsenoside類が含まれていることが知られ、実験的にも人参と同様な中枢神経に対する刺激や血圧降下、疲労回復などの作用が認められています。人参と比較すると補気作用は弱いようですが滋陰清熱作用は優れているようです。つまり熱証の人に対する滋養強壮に適しているとされます。中国では白虎加人参湯の人参の代わりに広東人参が使用されることもあるようです。

 Panax属は東アジアからネパールにかけての一帯と北アメリカに分布しています。それらの地下部は、朝鮮人参や竹節人参、ベトナム人参、今回取り上げた広東人参(アメリカ人参)などとして各自生地で使用されて来ました。広く人類が恩恵をうけてきた代表的な植物のひとつと言えます。

 

(神農子 記)