基源:シソ科(Labiatae)の Salvia miltiorhiza Bunge の根

 一般に園芸店でサルビアといえばヒゴロモソウ Salvia splendensのことで、初夏から秋にかけての花壇を長期間にわたって鮮やかな緋色の花(実際に赤くなるのは萼)で飾ってくれます。また、豚肉や鶏肉料理にハーブとして利用される有名なセージSalvia officinalisもサルビアの仲間です。シソ科の植物で、属名の Salvia はラテン語で無病息災を意味する Salvus に由来します。また、種小名のofficinalisの意味(有用な、薬用の)からセージが古くから薬用植物として利用されてきたことが窺え、今でも扁桃炎などの治療薬とされます。今回話題の中国の「丹参」もまたサルビアの仲間です。

 「丹参」とは、丹すなわち辰砂(硫化水銀)のような赤い色をした人参の意味です。『名医別録』には「赤参」の名で記載されています。黄色い色をしたウコギ科由来の薬用人参やゴマノハグサ科由来の玄参(黒い人参)を思い浮かべると、中国医学の五行それぞれに対応する原植物が違った人参のあることが頭に浮かびます。明代の李時珍は「五参はその五色がそれぞれの五臓に配するものだ。人参は脾に入るから黄参といい、沙参は肺に入るから白参といい、玄参は腎に入るから黒参といい、牡蒙は肝に入るから紫参といい、丹参は心に入るから赤参という」などと色が異なる五参について説明しています。

 丹参の原植物Salvia miltiorhiza は中国各地に分布する多年生草本で、高さ 40〜80 cm、全体に細かい柔毛に覆われています。葉は対生し、奇数羽状複葉で、小葉は 3〜5 枚で卵形あるいは広い被針形で長さ 1.5〜8 cm。夏期に総状花序を頂生あるいは腋生し、紫色のやや大型の唇形花が階段状に 3〜10 個輪生します。日本で使用される丹参はこの一種のみですが、中国では地域によって他の同属植物を丹参として使用しています。紫丹参 S. przewalskii(甘粛、寧夏、青海、雲南、西藏など)、甘粛丹参 S. przewalskii var. mandarinorum(甘粛、寧夏、青海、雲南など)、滇丹参 S. yunnanensis(雲南など)です。

 Salvia属植物の根は一般に円柱形あるいは紡錘形に肥大し、薬用にはこの根を使用します。丹参の選品としては、不整な円柱形で、長さ 15〜20 cm、太さ 0.5〜1.5 cm。外面は赤褐色〜暗褐色を呈し、大型で形が整い、内側が暗褐色〜紫黒色で菊花型の白点があるものが良質とされています。現在では中国各地で栽培されており、四川省産の品質が最良であるとされています。根にはフェナンスラキノン系の色素であるタンシノンⅠ(紫褐色)、タンシノンⅡ(赤色)、クリプトタンシノン(橙色)などが含まれており、これらが丹参の色となっています。

 丹参は中国医学で活血化瘀薬に分類され、活血、通経、涼血、安神などの作用があり、月経不順、月経困難、産後の腹痛などの婦人科疾患をはじめ腹痛や胸痛神経衰弱などにも用いられています。また、『婦人明理論』には「ただ一味の丹参散の主治は四物湯と同じである」と記載されています。その他の処方として、冠心Ⅱ号方は丹参・川芎・降香・紅花・赤芍などの活血作用を持つ生薬で構成されていますが、5 種類の生薬の中には 3 種類の赤色を意味する漢字が使用されています。1960 年代中国では狭心症や心筋梗塞などで命を落とす人が多くいました。そこで中国中医研究院によって研究開発されたのが丹参を中心とした処方の冠心Ⅱ号方です。その開発の経緯は丹心譜という劇にもなりました。

 今日の日本でも心疾患が死因の多くを占めています。五行説に習い丹参をはじめとする赤色の生薬の更なる研究が期待されます。

 

(神農子 記)