基源:ミクリ科(Sparganiaceae)のミクリ Sparganium erectum L. (Sparganium stoloniferum (Graebn.) Buch.-Ham. ex Juz.) の塊根である。

 「三稜」という、外形や効能がいずれも「莪朮(ガジュツ)」に類似した生薬があります。「莪朮」はショウガ科ガジュツ Curcuma zedoaria Roscoeの根茎に由来する生薬です。『湯液本草』には「(三稜は)血中の気を破り、肝経血分の薬である。三稜、莪朮が積塊や瘡の硬いものを治するのは、堅いものを削ると同じような関係である」とあります。実際に三稜と莪朮は共に消積の効用がありよく似ていますが、活血・去瘀の作用は三稜が強く、理気・止痛の作用は莪朮が強いとされます。そのため活血と理気の作用をより強めるために両者を併用することもあるようです。

 三稜には大きく分けて二種類の原植物に由来する異物同名品が存在します。ミクリに由来するものを「荊三稜」と称するのに対し、カヤツリグサ科ウキヤガラ Scirpus yagara Ohwi の塊茎に由来する生薬を「黒三稜」と称しています。いずれも植物の茎の断面が三角形であることから「三稜」と判断され、両者が混在することになったと考えられます。ここで、ミクリの中国名は「黒三稜」、ウキヤガラの中国名は「荊三稜」であることから、植物名と生薬名が入れ替わっていることに注意しなければなりません。『国訳本草項目』や『和漢薬考』など日本の文献では「三稜」の原植物をウキヤガラとしていますが、実際、日本で使用されているものは中国産、すなわちミクリ由来の「荊三稜」です。生薬「荊三稜」の外形は、刀で削った跡が残る円錐形でやや扁平、外表面は黄白色または灰黄色です。質が堅く水に入れると沈みます。一方生薬「黒三稜」の外形は凸凹があるほぼ球形で外表面は黒褐色です。質が軽く水に入れると水面に浮かびます。「黒三稜」はこの特徴から、『中薬材正名辞典』では「泡三稜」とも称されています。含有成分や組織で見てもミクリ由来の「荊三稜」はデンプンを含むことや維管束が木化しないこと、ウキヤガラ由来の「黒三稜」はデンプンを含まず、維管束部が木化するという特徴があります。

 ミクリはミクリ科の湖沼や河川などに生育する多年生草本で、北半球の各地域に分布しています。根茎は横に成長し、太く短い地下茎を生じます。茎は直立し高さ 2 メートルに達します。葉身は線形で幅2センチ、長さ60〜90センチ、葉の基部は茎を抱きます。夏に棘のある球状の頭状花序を形成します。雄性花と雌性花があります。花後、核果状の果実を形成します。生薬は、秋から冬にかけて塊茎を収穫し、茎葉及びひげ根を取り除き、洗浄後、外皮を削り落とした後、乾燥させます。かすかな匂いがあり、味はうすく、噛むと少し辛くてしびれる感じがあります。大きさが揃っており、質は堅く、外皮がきれいに取り除いてあり、表面が黄白色であるものが品質が良いとされています。

 一方、ウキヤガラも水辺に生育するカヤツリグサ科の多年生草本植物で、日本や中国大陸、北アメリカに分布しています。根茎は横に成長し、先端に球状の塊茎をつけます。高さは1メートル50センチほどです。葉身は線形、幅5〜10ミリ、長さ20〜30センチ、基部は鞘状で茎を抱きます。花期は初夏、散形花序をつけます。ウキヤガラに由来する生薬は円球形に近く、表面は黒褐色から赤褐色のものになります。両種の鑑別法は前述のとおりです。

 三稜は「醋三稜」に修治されることが多いようです。夾雑物を取り除いた後、水に浸し十分に水を浸透させた後、うすく切断し日干しにします。この三稜をお湯の入った鍋に入れて浸し、煮て5割ほど浸透したとき酢を加え、さらに煮て8割ほど浸透させ、残りの湯を吸い尽くしてから取り出し外皮に水分がなくなるまで乾かし、薄く切って日干しにして完成させます。醋三稜にすることで止痛作用を増強することができるとされています。

 三稜の使用頻度はそれほど多くありません。基源の複雑さがその主な要因の一つだと考えられます。ミクリ、ウキヤガラいずれも日本にも分布している植物ですから、上手に利用することで日本産資源を有効活用できる生薬の一つです。

 

(神農子 記)