基源:紅大戟はアカネ科(Rubiaceae)の Knoxia valerianoides Thorel ex Pit. の根を乾燥したもの。京大戟はトウダイグサ科(Euphorbiaceae)の Euphorbia pekinensis Rupr. の根を乾燥したもの。

 イワタイゲキやセンダイタイゲキなどトウダイグサ科の植物には「タイゲキ」と名づけられた種が多くあります。これはトウダイグサ科に由来する生薬「大戟(タイゲキ)」に由来していますが、「大戟」の原植物はトウダイグサ科だけではありません。現在、中国には複数の科の植物に由来する「大戟」が流通しています。主なものに「紅大戟」と称されるアカネ科植物に由来する生薬と、「京大戟」と称されるトウダイグサ科植物に由来する生薬が挙げられます。前者は「紅芽大戟」や「紅牙大戟」などとも称されています。中華人民共和国薬典では両生薬をそれぞれ別項目として収載しています。

 大戟は『神農本草経』の下品に収載され、『本草綱目』には「その根が辛く苦く、人の咽喉を鋭く刺戟するから名付けたものだ」と記載されています。さらに『大戟は平澤に甚だ多く生える。直径で高さ二〜三尺、中が空で折れば白漿が出る。葉は細く狭く、柳葉のようで円くはない。その梢には葉が密に集って上に着く』とあります。『日華子本草』には「苗は甘遂に似て高く大きく、葉に白汁があり、花は黄色だ」とあります。甘遂もトウダイグサ科に由来する生薬ですが、大戟の原植物に関する記載もトウダイグサ科植物の特徴を示しています。効能面からも『本草綱目』に「甚だ峻烈に下痢をするもので、よく人体を傷う。弱い患者が服すれば吐血することがあるから注意を要する」と記載があります。これらの記載からも大戟の正品はトウダイグサ科植物に由来することが示唆されます。これが現在の「京大戟」に対応すると考えられます。

 他の一種の「紅大戟」は、中国南部の福建、広東、広西、雲南などで生産されています。原植物のアカネ科 Knoxia valerianoidesは低山の斜面の草原で半日陰の場所に生育しています。多年生の草本で高さ0.3〜1.0メートル、葉は長さ2〜10センチ、幅0.5〜3.0センチで対生しています。夏に淡紫紅色の花をつけ、花冠は筒状漏斗型で長さ2.0〜3.0センチ、先端は4裂します。花後、種子を2個結実させます。秋に収穫した根は沸騰水に通したのち乾燥させます。形状はやや紡錘形で希に分枝があり、やや湾曲しています。長さは3〜10センチ、直径は0.6〜1.2センチです。外面は赤褐色を呈し、断面は周囲が赤褐色で内部は黄褐色です。質は堅く、匂いは薄く、味は甘くやや辛いとされています。

 「京大戟」は中国の江蘇、湖北、山西などで生産されています。原植物のトウダイグサ科 Euphorbia pekinensisは道端や山の斜面、荒れ地や比較的日が当たらない湿った樹林に生育しています。多年生の草本で高さ 30〜80 センチ、全草に白色の乳液を含みます。ほぼ無柄の葉が互生して付きます。葉は長さ3〜6センチ、幅6〜312ミリで全縁、下面は白い粉で覆われています。4月から5月にかけてトウダイグサ科に特徴的である杯状の集散花序の花をつけます。雌花、雄花には花被がなく、腎臓形の包葉がつきます。6月から7月に三稜状の球形のさく果を結実させ、卵円形の種子をつけます。秋に収穫した根は洗浄後、日干し乾燥させます。形状は不揃いな長い円錐形で時々分枝があり、やや湾曲しています。長さは10〜20センチ、直径は1.5〜4.0センチです。外面は灰褐色を呈し、断面は類白色から淡黄色で繊維性を呈します。質は堅く、匂いは薄く、味はやや苦くて渋いとされています。

 「大戟」の効能に、水腫実証の腹水、浮腫、尿量減少、便秘、脈が実などの症候に甘遂、芫花、牽牛子などと使用すると記載されています。大戟は臓腑の水湿を泄し、甘遂は経隧の水湿を行かせ、うまく用いると奇効を収めることができるとされています。しかし前述のとおり「大戟」には少なくとも2種類以上の異物同名生薬が存在しています。アカネ科とトウダイグサ科のように明らかに含有成分が異なる分類群ですから、使用時は原植物に充分注意しなければなりません。

 

(神農子 記)