基源:コショウ科(Piperaceae)のヒハツ Piper longum L. の未成熟果穂を乾燥したもの。

 コショウ科植物は日本では馴染みが薄いですが、世界の熱帯を中心に8〜12属、1400〜3000種が知られている比較的大きな科です。その多くは芳香のある精油成分やアルカロイドを含有し、香辛料や薬用植物として重要な分類群です。今回話題の蓽茇(ヒハツ)Piper longum L. は英名でLong pepperと呼ばれ、東南アジアをはじめ各地で薬用や香辛料として利用されています。

 原植物のヒハツPiper longum L. は木本状になる多年生のつる性植物で、茎は下部がほふくし、枝が横走し、柔らかく、稜と溝があり、若い茎は短い柔毛で蜜に覆われます。葉は互生し、葉身は楕円形または卵形、全縁で上面はやや光沢があってなめらかで、紙質です。雌雄異株で穂状花序をつけ、蓽茇として利用される雌花穂は花期には長さ約1.5cmの棍棒状で、表面に直径1 mm以下の目立たない花をつけ、花穂は果実が熟するに従って徐々に大きくなります。

 東南アジアに広く分布し、辛味があることから古来スパイスとしても多用され、ギリシャには紀元前に伝えられました。中国名の蓽茇(ピーパー)はサンスクリット名Pippiliの音訳と考えられます。やはりシルクロードを介して中国に伝えられた薬物ですが、本草書への記載は『開宝本草』が最初です。その名称に関して李時珍は「蓽撥とあるのは蓽茇と書くのが正しいのであって、『南方草木状』に記載されている外国語だ。陳蔵器の本草には畢勃とあり、『扶南傅』には逼撥と書き、『大明會典』には畢蕟と書き、段成式の酉陽雑阻には摩伽陀国では蓽撥梨と呼び、拂菻国では阿梨訶陀と呼ぶと言っている」と記しています。『開宝本草』には「蓽撥は波斯国に生じる。叢生するもので、茎、葉は蒟醬(キンマPiper betle)に似ている。その子は緊って細かい。味は蒟醬よりも辛烈だ。胡人が携えてくるが、それは食味に入れて用いるのだ」と記され、『図経本草』で蘇頌は「七月に子(実)を結び、その子は小指ほどの太さで、長さ二寸ほどあり、青黒色で椹子のようだがそれより長い」と述べており、このものは明らかにヒハツP. longumであると考えられます。

 若い果実がついた長い果序軸をそのまま乾燥させた「蓽茇」は、円柱形でやや湾曲し、長さ2〜4.5 cm、直径5〜8 mmで、柄はほとんどなく、表面は黒褐色で、細くて小さい痩果が多数蜜に並び、交錯した突起状になります。味は辛く特異なにおいがあります。堅く、肥大して、味が濃いものが良品とされていますが、香味はコショウに劣ります。

 インドの伝統医学アーユルヴェーダでは古くから重要な薬物とされ、食欲不振、リウマチ、性欲減衰、消化不良、鼓腸、喘息、気管支炎、しゃっくり、てんかん、発熱、淋病、痔などに用いられてきました。また、根は痛風、喘息、リウマチ、不眠症、腰痛、消化不良、脳卒中、胃痛、脾障害などに用いられます。未成熟果穂を主薬として作られたピッパリ・アーサワは食欲増進薬や胃腸薬としてよく知られています。

 含有成分としてはアルカロイドのピペリン、チャビシン、ピペルロングミンなどが含まれ、抗菌作用や血管拡張作用が報告されています。中医学では散寒・止痛薬とされ、冷えによる腹痛、下痢に用いられ、蓽茇、肉桂、高良姜が配合された已寒丸は暴泄、嘔吐を治すのに用いられます。

 なお、沖縄県でピハーツ、フィファチ、沖縄コショウと呼ばれているものは、ヒハツモドキP. retrofractumのことで、ヒハツがインドナガコショウと呼ばれるのに対して、ジャワナガコショウの名称で取引されています。沖縄では健胃整腸、食欲増進に用いられ、特にヤギ料理やブタ料理の調味料として利用されています。

 古来スパイスとして珍重されてきた蓽茇ですが、コショウの出現によりその地位が逆転してしまいました。とはいえ、蓽茇が血流を促進し、新陳代謝を高め、体温を上昇させて脂肪の燃焼を促進させることから、健康食品やダイエット素材として近年再び注目されています。

 

(神農子 記)