基源:アマ科(Linaceae)のアマ Linum usitatissimum L. の成熟果実を乾燥したもの。

 アマは古代エジプト時代から重要な繊維植物として栽培されてきました。茎の繊維は細く短いがしなやかで張力に優れ、木綿に近い風合いで特有の亜麻色をしています。また、耐久性があるためリンネル製品として、シャツやテーブルクロス、キャンバスなどに利用され、タバコの巻紙にも使われてきました。その後繊維生産の中心はヨーロッパに移行し、日本には明治時代初期に伝わったとされ、北海道や岩手県で栽培されています。また、つぶした種子からはアマニ油(亜麻仁油)という良質の乾性油が採れます。乾性の性質を利用して、染料、ニス、印刷用インキなどに使われており、工業用として重要です。亜麻の栽培品種は繊維用と油用とで異なり、採油用はアメリカ、カナダなど世界各地で栽培されています。

 アマ(Linum usitatissimum)は中央アジア原産の一年生草本で、高さ25〜90 cm、あるいはそれ以上になります。茎は直立し基部はやや木化しており、分枝は少なく、葉は互生し葉柄はほとんどありません。葉身は線形か線状披針形で、長さ1.8〜3.2cm、幅2〜5mmです。開花期は6〜9月で、花は分枝した先端および上部の葉腋に多数がつき、葉腋ごとに1個の花があります。花の径は約1.5cm、花弁は5枚で藍白色あるいは白色の倒卵形か広卵形をしています。蒴果は球形またはほぼ球形で長さ約8mm、中にある種子は卵形か卵状楕円形で扁平、長さ約6mmで、これが亜麻仁です。

 薬用としての亜麻仁の記載は、宋代の『図経本草』に「亜麻子は兗州、威勝軍に産する。味甘微温、無毒、苗、葉は共に青く、花は白色である。8月上旬その実を採って用いる。また鵶麻と名づく。大風疾を治す」とあり、「威勝軍亜麻子」の図を付しています。しかし、この図はアマには似ておらず、シソ科植物またはアカネ科のヤエムグラ属Galium sp.植物のように見えます。また、李時珍は「今は陝西地方でもこれを植える。即ち壁虱胡麻である。その実はやはり油を搾って点燈しうるものだが、気が悪くて食料にはならない。その茎、穂は頗る茺蔚に似ているが、子は同物ではない」と言っており、『植物名実図考』の「山西胡麻」はアマによく合致しており、明代ごろから亜麻を胡麻と言うようになったと思われます。また、牧野富太郎はこの「山西胡麻」の図はシュッコンアマLinum perenne L.ではないかと述べています。今日、中国では「亜麻仁」を「胡麻仁」と称していることもあり注意が必要です。中国の産地は内蒙古、黒竜江、遼寧、吉林省等に多く産し、広い畑に一面に薄青い花が咲いた景色は素敵です。

 亜麻仁は脂肪油を30〜40% 含み、主な成分はリノレン酸、リノール酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸、その他、ステアリン酸、パルミチン酸などの飽和脂肪酸のグリセリンエステル混合物や、他に青酸配糖体であるリナマリンを少量含みます。今日処方中にはほとんど配合されていませんが、強壮、緩下作用や刺激緩和作用があり、病後の虚羸、眩暈、腸燥便秘などの症に、麻風、瘡癰、肺癰、吐膿血等の症に応用されています。また、民間療法では皮膚の痒みに対して種子をすりつぶして外用します。

 今日我が国では健康食品の素材としても注目されています。その理由として、他の植物性油にあまり含まれていないオメガ3系脂肪酸のα-リノレン酸が多く含まれていること、食物繊維が豊富であることがあげられます。また、アマニリグナンは腸内細菌によって代謝され女性ホルモン様の作用があるとされています。しかし、亜麻仁油は酸化されやすいため、なるべく新しいものを摂取する必要があることや、微量の青酸配糖体が含まれていることからも過量に使用しないなどの注意が必要でしょう。

(神農子 記)