基源:茺蔚子はシソ科(Labiatae)のメハジキ Leonurus japonicus Houtt.の成熟果実、益母草は全草。

 茺蔚子は『神農本草経』の上品に収載され、益母、益明(本経)、貞蔚(別録)などの別名があります。李時珍は「此の草及び子は、いずれも充盛、密蔚なるものだ。故に茺蔚と名付ける。その効力が婦人に適し、目を明らかにし、精を益するところから益母なる名称がある。」と記録しており、益母の種子が茺蔚子であることが分かります。また「茺蔚は水に近い湿地に甚だ繁茂するもので、春初に蒿の嫩葉のような苗が生え、夏に入って長さ三、四尺になる。茎は四角で黄麻の茎のようで葉は艾葉のようで背面が青く、一梗三葉で葉に尖岐がある。一寸ほどずつに節があって、節毎に穂が簇生して茎を抱く。四、五月の頃に穂の内に小さい花を開き、その花には紅紫のものと微白色のものとがあって、萼毎に内に四粒の細子があり、一粒の大きさは同蒿の子ほどのもので三稜のある褐色のものだ。薬肆では往々これを巨勝子と称して売っている。この草は生えたときには臭気があり、夏至の後に枯れる。その根は白色だ。」とその植物形態を詳細に述べており、これらの内容から益母は明らかにメハジキ、もしくは近縁のホソバメハジキLeonurus sibiricus L.であることが分かります。

 和名のメハジキは、かつて子どもたちが茎を短く折ってまぶたにはさみ、目を大きく見開いて笑い、強く目を閉じて茎を飛ばす遊びに使っていたことから「目弾き」と名付けられたとの説があります。一方で、薬用として目を明らかにする作用があることから名付けられたとする説も有り、『神農本草経』にある別名の「益明」も同じ意味であると考えられます。

 メハジキは本州から南西諸島、朝鮮半島、中国、東南アジアなどの河原や荒地などに多く見られる植物です。一年生または二年生草本で茎は四角形で直立し、高さ60cm〜1mあまりに育ちます。葉は対生し、葉形は多様で、茎中部の葉は3全裂し、裂片はほぼ披針形、中央の裂片は通常3裂し、両側の裂片は通常さらに1〜2裂し、これら最終的な裂片はほぼ線形になります。最上部の葉は分裂せず線形です。

 茺蔚子は果実が成熟した8〜10月頃に刈り取り、日干しして果実を打ち落として収穫します。粒が大きく飽満で夾雑物がないものが良品とされており、ビタミンA様物質やアルカロイドであるレオヌリンやオレイン酸やリノール酸のような脂肪酸が含まれています。また、全草を益母草として利用する際には夏頃に生長繁茂して花が全開していないときに地上部を刈り取ります。茎が細く、質が柔らかく、緑色をしており、夾雑物がないものが良品とされており、花が満開の時や果実が成熟した時に採取したものは品質が劣るとされています。含有成分としてビタミンA様物質の他、レオヌリン、レオヌリジン、スタキドリンなどのアルカロイドやルチンなどのフラボノイドが報告されています。ビタミンAは網膜細胞の保護作用や視細胞における光刺激反応に重要な物質です。また、レオヌリンには子宮収縮作用などが報告されており、本草書に記された薬効を裏付ける成分と言えます。益母草が配合される処方として、当帰、川芎、麝香などと用いる益母丸や、当帰、地黄、川芎、白朮、茯苓、陳皮、烏薬、大棗、香附子、甘草、牡丹皮、生姜などと用いる芎帰調血飲などがあります。

 茺蔚子と益母草は性味がわずかに異なっていますが、その効用は非常によく似ており、李時珍は「益母草は、根、茎、花、葉、実いずれも薬に入れて同様に用い得るものだが、手、足の厥陰の血分の風熱を治し、目を明らかにし、精を益する。婦人の経脈を整える場合には茺蔚子を単用するのが良く、腫毒、瘡瘍を治し、水を消し、血を行らし、婦人の産前の諸病を治する場合には併用するが良い。蓋し、その根、茎、花、葉は行らすことが専らであり、子は行中に補の効果があるからだ」と記しています。茺蔚子、益母草とも活血調経の妙薬で、古来産後の要薬とされてきたことが伺えます。

(神農子 記)