基源:マメ科(Leguminosae)の Spatholobus suberectus Dunn.、Mucuna birdwoodiana Tutcher などの木質の茎。

 植物は傷つけられることによって様々な液状物質を分泌します。例えば、トウダイグサ科のパラゴムノキからはゴムの原料となる白色の乳液が分泌され、ケシ科のタケニグサからはアルカロイドを含んだ橙色の乳液が分泌されます。今回のテーマである鶏血藤は茎を切断するとニワトリの血のような鮮紅色の液汁が流れ出すことから名付けられたとされています。赤い樹液は非常に特徴的で、間違いが生じる可能性は少ないと思うのですが、なぜか古来多数の原植物が存在し、現在でも属が異なる様々な植物に由来する鶏血藤が流通しています。

 原植物の形態に関する記載は『本草綱目拾遺』に「鶏血藤膠」の説明文として掲載され、「猛緬に産する。雲南の昆明を去る工程一個月餘の地点である。これは藤の汁であって、土人がその汁を取り、割桼のようなもので濾し、鶏血のように殷紅なものを膠にしたものが最も良い。近頃では雲南省にも産する。その茎は長く地上或いは山崖に亘蔓して、一茎の長さが数十里になる。土人がそれを得て刀で斫り断つと血のような汁が出て、一茎から数升の汁が得られる。乾固物は山羊の血に極めて似たものだ」と記載されており、切断すると赤色の液汁を流す蔓性植物であることが伺えます。さらに、『植物名実図考』には「昆明鶏血藤」が収載され、記載内容および図から恐らくマメ科のMillettia属植物と考えられます。その他、鶏血藤と呼ばれる異物同名品は多数存在し、広東、広西、甘粛省ではMillettia reticulata(ムラサキナツフジ)、広東、広西、雲南省では蜜花豆(Spatholobus suberectus)、広東、広西、雲南省では白花油麻藤(Mucuna birdwoodiana)、江西、四川省では香花岩豆藤(Millettia dielsiana)に由来するものが使用され、これらはすべてマメ科植物です。

 現在市場には一般に樹液を固めた鶏血藤膠よりも木質茎そのものを薄片に切ったものが流通しています。薬材の特徴として、蜜花豆に由来するものは扁平な円柱形で少し湾曲し、直径2〜7cm、表面は灰褐色ですが、コルク層が剥離した部分は赤褐色で明瞭な縦溝と皮目の小さい点があります。横断面には一方にかたよった小幟の型がみられ、木部は淡赤色、導管が小さな穴のように不規則に配列し、靱皮部には赤褐色あるいは黒褐色の樹脂状の分泌物があります。木部と靱皮部は交互に並び、かたよった半円形の環となり、質は堅く簡単には折れませんが、折断面は不揃いな裂片状で、においは薄く味は渋い。白花油麻藤に由来するものは蜜花豆に由来するものと似ていますが、コルク層が剥離した部分は赤褐色で縦向きの溝と横向きの皮目がはっきりと認められ、節はわずかに突起し、分枝のあとがあるものもあります。横断面の中央には一方にかたよった小型の髄があり、木部は淡赤褐色。靱皮部は赤褐色ないし黒褐色の円い環状を呈し、靱皮部の外側にはさらに木部と靱皮部が交互に配列した同心の半円形の環がみられ、においは薄くて味は渋い。香花岩豆藤に由来するものは、円柱形で表面は灰褐色、縦紋があり、横断面は皮部が半径の1/4を占め、外に向かって徐々にまばらになる赤褐色のやに状の斑点が密にあります。木部は黄色で、導管は小さい穴状を呈し、質は堅く、においは薄く味はわずかに苦渋い。

 鶏血藤はカテキンなどのポリフェノールやホルモノネチン、ダイゼイン、オノニンなどのイソフラボンなどを含有しており、活血補血、舒筋活絡の効能があり、月経異常や生理痛、麻痺、関節痛、打撲痛などに用いられます。鶏血藤膠の効能は鶏血藤とほぼ同じですが、滋養作用や止痛作用に優れるとされます。『本草綱目拾遺』には「筋骨を壮にし、酸痛を已やす。酒に和して服す。老人に最も宜し、老人の気血虚弱で手足の麻木し、痴瘓するなどの症を治す。男子の虚損で生殖を全うせぬもの、及び遺精、白濁、男女の胃寒痛、婦人の経水不調、赤白帯下、婦人の乾血労、及び子宮虚冷で受胎せぬもの等を治す」とありますが、今回取り上げた植物以外にも十数種の異物同名品が知られており、確かな薬効を得るためには先ずはどの植物に由来する生薬かを鑑別する事が重要でしょう。

(神農子 記)