基源:キク科(Compositae)のキク Chrysanthemum morifolium Ramat. 又はシマカンギク Chrysanthemum indicum L. の頭花。

 昨年は令和に改元し,今回,令和としての初の新年を迎えました。私達は一連の皇室関連行事を通じてキクの紋章を幾度となく眺める機会がありました。キクは日本の国章にも採用されておりパスポートの表紙にも印刷されています。

 キクは古くから園芸植物として栽培され,頭花の大きさ,花の数,花弁の色や形など無数の品種・系統が作り出されてきました。このような種類の多様性に加え,花持ちが良い特性,そして栽培技術の工夫などの理由で花屋の店頭では一年中いつでもキクの花を見ることができます。これらのキク Chrysanthemum morifolium は,キク科植物の総称としての広義のキクと区別するために「イエギク」,「栽培ギク」と称されることもあります。

 キク C. morifolium は元来,日本には自生していませんでした。中国大陸では野生キクをもとに唐代(618-907年)に栽培化が開始されたとされています。キク C. morifolium の起源はチョウセンノギク C. zawadskii subsp. naktongense やハイシマカンギク C. indicum var. acutum の交配による雑種と推測されています。日本には平安時代(794-1190年頃)初期に導入されたと考えられています。日本ではこの時期から貴族社会で重陽の節句に菊花を酒に入れて飲み,無病息災や長寿を願う風習が形成されたようです。鎌倉時代にはこの習慣が庶民に広まるととともに身近な植物になりました。

 キク科植物は多数の花が茎の先に集まって頭花を形成します。個々の小さい花は花弁が筒状に合着した管状花となっています。頭花の外側には,舌状に花弁が長く伸びる舌状花が配置されています。すなわち頭花の中心部の管状花を取り囲むように舌状花が並ぶため,頭花全体で1つの花のように見えるのです。

 日本では第十七改正日本薬局方で「キクカ(菊花)」はキク C. morifolium 又はシマカンギク C. indicum の頭花と規定しています。一方,中華人民共和国(2015)では,「菊花」の原植物はキク C. morifolium で,C. indicum に由来するものは「野菊花」として収載されています。実際 C. morifoliumC. indicum の頭花に由来する生薬は明らかに形態が異なっており,中国では区別しています。C. morifolium に由来するものは安徽省,河南省や浙江省などで生産され「亳菊花」,「貢菊花」,「杭菊花」などの名称で流通しています。白花と黄花がありますが, 9月から11月にかけて収穫されます。陰干しや蒸して日干しなどの加工法があります。直径が1.5 cm から 4 cm で頭花内の管状花の割合が小さく舌状花に隠れて目立たない場合もあります。花が完全で色が鮮やか,そして匂いがすがすがしく,柄や葉の混入が少ないものが良品とされています。味は甘くやや苦いとされています。C. indicum に由来するものは湖北省や安徽省などで生産されており「苦薏(クヨク)」とも称されます。こちらは黄花で秋および冬の開花に合わせて収穫され,日干しや蒸して陰干し乾燥などの加工法があります。直径が 1 cmにも満たない小さいものです。花が完全で黄色,匂いが強いものが良品とされています。

 菊花の薬効として明目作用が挙げられます。肝陰不足の視力減退や目のかすみには杞菊地黄丸が使用されます。また平肝陽作用として,肝陽上亢によるめまい,ふらつき,頭痛,頭が張るなどの症候には釣藤散が使用されます。また C. morifolium に由来する黄花の菊花は味苦で泄熱に長じ疏散風熱に優れており,同じく白花の菊花は味甘で,清熱に長じ平肝明目に優れている,とさらに使い分けがされています。一方,C. indicum に由来する野菊花は清熱解毒,消腫に優れているようです。日本市場で菊花は通常 C. indicum に由来するものであり,C. morifolium に由来するものを別に「杭菊花」という名称で区別をしています。

 菊花の薬効は,長時間にわたるパソコン作業や携帯画面の注視など現代のライフスタイルの改善に効果的です。中国で菊花茶を飲む習慣があるように日本でもこの習慣を見習いたいものです。

(神農子 記)