基源:リンドウ科(Gentianaceae)のトウリンドウGentiana scabra Bunge var. scabraG. manshurica Kitagawa 又はG. triflora Pallasの根および根茎を乾燥したもの。

 リンドウ科は世界に74属約1200種があり、花卉類としてトルコギキョウやエゾリンドウなどが広く知られていますが、トウリンドウ、センブリ、ゲンチアナなど薬用植物として利用されている種も多くあります。これらの植物は共通して目の覚めるような苦味をもち、この苦味が唾液や胃液の分泌を促し消化を助けることから、世界各地で苦味健胃薬として利用されてきました。

 リンドウGentianascabraあるいはその近縁種の地下部に由来する竜胆は『神農本草経』の上品に収載され、「骨間の寒熱、驚癇、邪気を主治し、絶傷を続ぎ、五臓を定め、蠱毒を殺す」薬物と記載されています。さらに『名医別録』に「胃中の伏熱、時気温熱、熱泄下痢を除き、腸中の小虫を去り、肝、胆の気を益し、驚惕を止める。久しく服すれば智を益し、物を忘れず、身を軽くし、老衰を防ぐ」と記されていることから、本来は健胃薬というよりも清熱、鎮静薬として用いられていたことが伺えます。また、その名称に関しては『開宝本草』に「別本注に云く、葉は龍葵(イヌホオズキ)のようで、味は胆のように苦いからその名がある」と記載があります。現在市場にはGentiana属の複数種の植物の根が出回っています。日本では9世紀末の『新選字鏡』に竜胆の記載があり、その和名には「太豆乃伊久佐」があてられていました。これは「竜の肝草」のことと考えられています。また、別名として「爾加奈」、「衣也美久佐」、「於古利於登之」などとも称され、「にがな」はその味を意味し、「えやみ」は疫病、「おこり」はマラリアのことなので、竜胆はこのような疾患の治療に用いられていたことが伺えます。延喜式典薬寮の諸国進年料には畿内、東海道、北陸道、山陰道、山陽道、南海道、西海道から産出し、朝廷への貢物とされていたことが記されており、『箋注倭名類聚抄』には「播州人呼於古利於登之、煎服之截瘧」と記載されていることからも薬用として供用されていたと考えられます。

 薬材として栽培されるトウリンドウの根茎は春、秋に収穫しますが、一般的に秋に収穫したものが良品とされています。乾燥した根茎は長さ約0.5〜3 cm、直径0.5〜1 cmの不規則な塊で、根は根茎上に束生し、長さ約8〜20 cm、直径は上部が0.2〜0.4cmで下部は細い。表面は黄色か黄褐色で、縦じわと支根の跡があり、質はもろくて折れやすく、断面はほぼ平坦で黄褐色、木部は非常に小さく白色に近い。においは非常に弱く苦味が強い。根が太くて長く、折れたり砕けたりしていない苦味の強いものが良品とされます。根が細く短く、根の本数が少なく、黄赤色のものは品質が劣ります。主産地は黒竜江、遼寧、吉林、江蘇、浙江省などです。

 竜胆の苦味はセコイリドイド配糖体のゲンチオピクロシド、トリフロロシド、スウェルチアマリンなどの苦味配糖体に由来し、中でもゲンチオピクロシドの含量に比例するとされています。その他の含有成分としてはキサントン誘導体のゲンチシン、糖類のゲンチアノース、ゲンチオビオースなどが知られています。中医学的な薬効として、肝、胆の旺盛な火を瀉す効能があることから、張元素は「足の厥陰、少陽の経の気分の薬であって、その応用に4通りある。(1)下部の風湿を除く、(2)湿熱を除く、(3)臍下から足に至る腫痛を除く、(4)寒湿脚気を除く。下行する功力は防已と同じで酒に浸して用いれば上行する。外行するには柴胡を主とし、竜胆を使とする。眼中の疾を治するに必用の薬である」と述べています。配合される漢方処方として、湿熱を除く竜胆瀉肝湯や立効散などがあります。

 竜胆、当薬(センブリ)、ゲンチアナは同じリンドウ科に由来し、それぞれ中国、日本、西洋と別の場所で発展しました。分析機器のない時代にこれらの苦味は毒と判断された可能性も考えられますが、「良薬口に苦し」は古来世界共通の認識だったのでしょうか。

(神農子 記)