基源:セリ科(Umbelliferae)のアギFerula assa-foetida L.の根茎から得られる樹脂。

 セリ科植物は古くから香料や調味料としてだけではなく、多くの種が医薬品として用いられてきました。ウイキョウの果実はフェンネルと呼ばれ、魚料理によく使用されますが、医薬品としては健胃作用があり、安中散などに配合されています。今回のテーマである阿魏も古来肉料理の調味料として利用されてきましたが、医薬品としての歴史も古く、インドではサンスクリット語でHinguと呼ばれ、駆風薬として利用されてきました。

 阿魏は『新修本草』に初収載され、「味辛、平。無毒。諸小虫を殺し、臭気を去り、癥積を破り、悪気を下し、邪気、蠱毒を除く。西蕃及び崑崙に生じる」とあります。唐本注に「苗、葉、根、茎は白芷に酷似する。根を擣いた汁を一日かけて煎じて餅にしたものを上とし、根を截って穿して暴乾したものを次品とする。体性は極めて臭いが、能く臭を止める。奇物である」といっています。その名称について、李時珍は「夷人は自らを称して阿という。この物は極めて臭く、阿の畏るものだという意味である。波斯国(ペルシア)では阿虞と呼び、天竺国では形虞と呼ぶ。涅槃經にはこれを央匱といってある。蒙古人はこれを哈昔泥という。元の時には食用に調味料とし、その根を穏展と名づけ、羊肉を淹けると甚だ香美で、その功は(樹脂由来の)阿魏と同じだといっている」と述べています。段成式の『酉陽雑俎』には「樹は長さ八、九尺で、皮の色は青黄、三月に鼠耳に似た形の葉を生じ、花、実はない。その枝を断ると飴のような汁がで、久しくすると堅く凝まり、これを阿魏と名づける。拂林国(東ローマ説が有力)の僧彎が説くところと同じである。摩伽詑国(古代インドの十六大国の一つ)の僧提婆は、その汁を取って米、豆の屑と和して阿魏を合成するのだ」と云っています。一方、蘇頌は蘇敬の説を引き、ほかに「今広州に出るものは、木の膏液が滴醸して結成したものだと云っており、二説あって蘇敬の説と同じでない。段成式の酉陽雑俎にあるものは今広州から報告されたものと近い」と書いていることから、阿魏の製造法に二説あることがわかります。また李時珍も「阿魏には、草、木の二種があって、草のものは西域に産し、晒すもよく煎じるもよい。蘇敬に所説のものがそれである。木のものは南番に産し、その脂汁を取る。李珣、蘇頌、陳承の所説のものがそれである」と云っています。阿魏はインド北部〜ペルシャに産する外国産生薬であったことから、その原植物を実際に見てなかったため諸説が出てきたのであろうと考えられます。

 阿魏の原植物であるF. assa-foetidaは中央アジア、イラン、アフガニスタンなどに分布する多年生草本で、強いニンニク様の臭気があります。はじめは根出葉のみで、5年目に花茎が出て高さ2 mに達し、葉は肉厚で早落し、基部に近い葉は3〜4回羽状複葉で長さ50 cmに達します。茎の上部の葉は1〜2回羽状複葉。花は単性または両性の複散形花序で、その中央には20〜30本の花柄があり、それらがまた多くの小花柄に分かれています。その他の原植物として、F. caspica(新疆阿魏)、F. fukanensis(阜康阿魏)、F. narthexなどが利用されています。

 薬材の特徴は丸い粒が凝集して大小さまざまな塊になっており、表面は暗黄色か黒褐色で、長く保存すると赤褐色に変わります。新しく破折した断面は乳白色、浅黄褐色、あるいは赤褐色が混じり、通称、五彩阿魏と呼ばれます。新疆阿魏の樹脂は灰白色ないしは浅黄褐色の軟膏状で白蠟ほどの硬さをしており、質は軽く、断面には穴が少しあり、純粋で混じり気がありません。

 含有成分として精油、樹脂を多く含むことが知られており、精油にはpineneと多種の二硫化物が含まれています。この二硫化物中、sec-butylpropenyl disulfideが約45%を占め、特異なニンニク臭の原因となっています。一般的に阿魏は灰分が15%以下のものを使用しますが、様々な品質のものが流通しており、佳品は1.5〜5%である一方、粗悪品は60%にも達することもあります。また、原植物や新旧などの違いによって品質が大きく異なり、含有成分においても甚だしい差異があるとされていることから、阿魏の使用にあたっては品質を見極める目が重要であると考えられます。

(神農子 記)