基源:マメ科 (Fabaceae/Leguminosae) のネムノキAlbizia julibrissin Durazz. の樹皮。

 ネムノキは日本各地の山地や河岸など開けた場所に生育する落葉高木です。ネムノキの名前は,小葉が夜になると閉じて眠ったようになることに由来するとされています。6月から7月にかけて開花し,ピンク色の綿毛が集まった半球のような形になります。満開時にはまるでピンクの雲が樹形を覆いかぶさったようになり,夏の始まりを告げる目印になります。印象的な名前や特徴的な形態からご存知の方も多いのではないでしょうか。

 ネムノキはマメ科に分類される植物です。ネムノキの果実を見れば,確かにマメの鞘状になりますので,マメ科であることが確認できます。しかしネムノキの花は,一般的な,マメのいわゆる“蝶形花”ではありません。この特徴からネムノキはマメ科ネムノキ亜科というグループを形成しています。ネムノキの花は,正確には 20個ほどの花が集まった頭状花が,さらに円錐花序を形作っています。一つの花を観察してみると,長く伸びた糸状のものは雄しべと雌しべの集まりであることがわかります。たくさんのピンク色の糸の先には小さな黄色の葯がついており,これが雄しべであることがわかります。その中に1本だけ白いものがありますが,これが雌しべです。これらを束ねている基部には緑白色から白色の花弁が,さらにガクがあります。ネムノキの“ピンク色の雲”はこのような緻密な花が幾重にも集まっているのです。葉は2回偶数羽状複葉で,1枚の葉には長さ10-15 mm,幅 2.5-4.0 mm の小葉が 36-58 もあります。夜には対生になっている小葉,羽状葉が合わさり閉じた形になります。このネムノキは日本全土から中国,中東に至る広い分布をしています。

 ネムノキは古代中国(2世紀頃)の本草書『神農本草経』の中品に「合歓」として収載されています。その薬効として「五臓を安んじ,心志を和し,人をして歓楽して憂いなからしめる。久しく服すれば身を軽くし,目を明にし,欲する所を得る」と,優れた薬効が記載されています。古代中国の南朝時代(500年頃),陶弘景は『神農本草経集注』で「俗間には識るものが少ない。それは療病の功でないからであろう」と述べており,この頃には既に使用頻度は高くないことが伺いしれます。しかし金元医学(12-14世紀)の四大家の1人,朱震亨は「合歓は土に属し,補陰の功が甚だ捷(すみやか)である。肌肉を長じ,筋骨を続くことも大体了解しうる。白蝋と共に膏に入れて用いれば神効がある。しかるに外科家で未だかつて録し用いぬは如何なるわけか」と述べています。合歓の薬効の有無は,その使用方法にあるようです。実際,清の時代(1773年)の『本草求真』には「合歓は気が緩で力はわずかなので,用い方が銭ほどだと効を奏することはできない。従って必ず繰り返し長く服用すべきで,そうしてこそはじめて心志が補益され歓喜する効があるのである」とありますので,やはり用量用法は重要であることがわかります。

 ネムノキの樹皮を乾燥したものを合歓皮といいます。夏か秋にその樹皮を剥がし,日干しにしたものです。厚さは1.0-2.0 mm で外表面は灰緑色から灰褐色,断面は淡黄色で繊維状です。その薬効には,強壮,興奮,鎮静,鎮痛,駆虫,利尿作用があるとされ,心煩,不眠,打ち身,骨打,腫癰などに応用されるようです。日本の民間薬としては,腫れ物や打撲傷,関節痛の治療に合歓皮の煎液で患部を洗ったり,浴湯料として使用したりするようです。またネムノキの花も合歓花と称して,合歓皮とほぼ同じ薬効があるようです。現在の中国ではむしろ合歓花の方が合歓皮よりも多く流通しているようです。資源を考えた場合,樹皮を採取する場合は樹木を伐採する必要がある一方,花は毎年採取できますから有効利用されていることになります。

 眠りにつくように見える様子から名付けられたとするネムノキですが,その樹皮や花の薬効の一つに不眠があることはとても興味深いことです。睡眠不足になりがちな現在の生活様式ですが,十分な睡眠は免疫力の維持確保のために非常に重要です。ネムノキが眠る姿を思い浮かべながら,改めて睡眠の重要性を考えたいものです。

(神農子 記)