ショウガ Zingiber officinale は熱帯アジア原産の植物で,世界各地で栽培されています。多くは食用とされますが,薬用としても各地の伝統医学で繁用され,漢方でも重要な薬物です。
ショウガは『神農本草経』の中品に「乾姜」として初収載され,『名医別録』には別に「生姜」の項目も設けられています。現在中国では,新鮮な根茎が「生姜」,乾燥したものが「乾姜」,また「乾姜」を加熱加工したものが「炮姜」として『中華人民共和国薬典』に載せられています。また,日本と中国では修治法と名称の対応が異なり,日本薬局方では,根茎をそのまま乾燥したものを「ショウキョウ(生姜)」,湯通し又は蒸したものを「カンキョウ(乾姜)(第十四改正第二追補から収載)」としています。
『本草綱目』には,「生姜」と「乾姜」が別条に記載されていますが,「生姜」の条の中に「乾生姜」という項が設けられており,明代には3種の修治法のものが存在していたことが伺えます。この「乾生姜」は,「生姜」をそのまま乾燥したものであると考えられることから,『本草綱目』に記された「乾姜」は単なる乾燥とは別の修治を加えたものであると判断されます。本書中には,「生姜」と「乾生姜」の修治法は記されていませんが,「乾姜」についてはいくつかの記述があり,『神農本草経集注』を引用して「根茎を水につけて皮を去り,晒して乾燥し,磁器製のかめにいれ,醸して製する」と紹介されています。
一方,李時珍は「乾姜は母姜で造る」と記しています。この「母姜」について李時珍の記述を見ると,「宿根を母姜という」,また「四月に母姜を取ってうえると五月に苗が生え・・・。秋に新芽が成長し,指をならべたような状態になり,食べれば筋がない。これを子姜という」と述べています。一般にショウガの栽培は,前年に収穫した根茎を種ショウガとして植え,その種ショウガから,新しい芽が出て新ショウガがふえていきます。李時珍がいう「母姜」はこの「種ショウガ」すなわち「ヒネショウガ」を指し,「子姜」は「新ショウガ」にあたります。「子姜」にあたる「新ショウガ」は辛味が軽く,水分が多くて乾燥しにくく,一方,「母姜」にあたる「ヒネショウガ」の方が辛味が強いことから,乾姜を造るには「母姜」がよいとされたものと考えられます。その後,日本の江戸時代の『和語本草綱目』には,「乾姜」の修治法に「母姜の腐っていないもの」を選び,『神農本草経集注』と同様の方法で修治することが書かれています。現在の「乾姜」については,『日本薬局方』や『中華人民共和国薬典』には「ヒネショウガ」を用いて造るとの指示はなく,実際には,新ショウガ,ヒネショウガを明確に区別することなく利用していると思われますが,本草書の記載からすると,本来はヒネショウガを用いるべきかもしれません。食用には新ショウガ,薬用にはヒネショウガと使い分けされていたのなら,ショウガの栽培にはムダがないことになります。薬効的な違いをも含めて興味のあることです。
原産地に近い東南アジアでは咳止めに利用され,また日本では健胃剤や利水剤に利用されるなど,世界的に様々な民間療法が知られるショウガですが,李時珍は「姜を久しく食すれば積熱して目を患う。痔病の人は,多食したり一緒に酒を飲んだりすればすぐに発病する。また,癰瘡の人が多食すれば,悪肉を生じる」とマイナス面についても紹介しています。薬効を有する身近な食材でもあるが故に,その誤った使用や摂りすぎには注意しなければなりません。