ホーム > 漢方・生薬について > 生薬の玉手箱 > 掲載順検索 【王不留行(オウフルギョウ)】
掲載順
平成30年29年28年27年
26年25年24年23年22年
21年20年19年18年17年
16年15年14年13年12年
11年10年9年8年7年
6年5年4年3年
平成30年 (2018年)上に戻る▲
12月コロハ/フェヌグリーク
11月ヒマシ・トウゴマ
10月オウフルギョウ
9月アマニン
8月ガイシとビャクガイシ
7月ヒハツ
6月ハコシ/ ホコツシ
5月セキリュウカヒとセキリュウコンピ
4月コズイシ
3月リョウジツ
2月ジョテイシ
1月ソウジシ
平成29年 (2017年)上に戻る▲
12月ソウキョウ
11月バトウレイ
10月ヤカン
9月コツサイホ
8月ゲンジン
7月コオウレン
6月ビャクゼン
5月バンランコン
4月カンツイ
3月ショウリク
2月ビャクキュウ
1月ロウドク
平成28年 (2016年)上に戻る▲
12月カンショウコウ
11月クセキ
10月ハゲキテン
9月ビャクブ
8月サンジコ・コウジコ
7月ハクトウオウ
6月タイゲキ
5月テンマ
4月サンリョウ
3月タンジン
2月サンシチニンジン
1月ジャショウシ
平成27年 (2015年)上に戻る▲
12月カントンニンジン
11月シツリシ
10月シュクシャ
9月サンソウニン
8月ショウズク
7月カッコウ
6月トコン
5月オウヒ
4月ニクジュウヨウ
3月オウセイ
2月ニクズク
1月インヨウカク
平成26年 (2014年)上に戻る▲
12月ベラドンナコン
11月アンソクコウ
10月ボウイ
9月アロエ
8月ホミカ
7月アラビアゴム
6月ヤクチ
5月アセンヤク
4月ジョチュウギク
3月ラクセキトウ
2月カミツレ
1月ヤミョウシャ
平成25年 (2013年)上に戻る▲
12月エキナケア
11月ボクソク
10月センプクカ
9月フヒョウ
8月ジンギョウ
7月ブクリュウカン
6月ゼンコ
5月ボウショウ
4月シンキク
3月ジョウザン
2月ハズ
1月シャチュウ
平成24年 (2012年)上に戻る▲
12月ジャコウ
11月バクガ
10月シクンシ
9月チユ
8月シオン
7月ビンロウジ・ダイフクヒ
6月サンズコン
5月コウホンとワコウホン
4月タイシャセキ
3月ビャッキョウサン
2月ウワウルシ
1月モツヤク
平成23年 (2011年)上に戻る▲
12月ボウチュウ
11月ロホウボウ
10月コンブ
9月チンジュ
8月ゲンチアナ
7月セイタイ
6月コウカ
5月カントウカ
4月ハンロウ
3月タイソウ
2月ニュウコウ
1月カンゾウ
平成22年 (2010年)上に戻る▲
12月ジンコウ
11月ゲッケイジュヨウ
10月ショクエン・ジュウエン
9月センソウ
8月スイテツ
7月セッケツメイ
6月クレンシ・クレンピ
5月モクツウ
4月ブンゴウ
3月トウニン
2月ハンピ
1月ショウコウとカイショウシ
平成21年 (2009年)上に戻る▲
12月ス・クシュ
11月ライフクシ
10月ジリュウ
9月ショウキョウ・カンキョウ
8月クコシ・ジコッピ
7月ショウバク
6月コショウ
5月ソウハクヒ
4月キョウニン
3月ガイヨウ
2月オウバク
1月ボレイ
平成20年 (2008年)上に戻る▲
12月サンヤク
11月サンシシ
10月カッコン
9月ヨクイニン
8月ゴマ
7月ダイズ
6月レイシ
5月デンシチ
4月ダイサン
3月ヨウバイヒ
2月オウレン
1月ケイヒ
平成19年 (2007年)上に戻る▲
12月モッコウ
11月キョウカツ
10月チャヨウ
9月ゾクダン
8月ハチミツ
7月ガイヨウ
6月ヘンズ
5月ソボク
4月フクボンシ
3月ハマボウフウ
2月オンジ
1月ゴマシ
平成18年 (2006年)上に戻る▲
12月サンシュユ
11月ジオウ
10月ヤカン
9月オオフルギョウ
8月サフラン
7月アロエ
6月ケンゴシ
5月セッコツボク
4月タラコンピ
3月ニンドウ
2月カシ
1月シツリシ
平成17年 (2005年)上に戻る▲
12月ジャショウシ
11月セキリュウヒ
10月ビャクシ
9月ブシ
8月コウボク
7月チョウトウコウ
6月ウコン
5月シャクヤク
4月カシュウ
3月サンソニン
2月ドッカツとキョウカツ
1月サンショウ
平成16年 (2004年)上に戻る▲
12月アセンヤク
11月トウガシ
10月チクジョ
9月モッカ
8月ケンジツ
7月テンナンショウ
6月アカメガシワ
5月ガイハク
4月リョウキョウ
3月ビワヨウ
2月ブシ
1月リュウガンニク
平成15年 (2003年)上に戻る▲
12月カッセキ
11月セキレンシとレンニク
10月マンケイシ
9月ヤクモソウとジュウイシ
8月ニンジンとコウジン
7月センブリ
6月トシシ
5月カノコソウ
4月センソ
3月ユウタン
2月コウベイ
1月セッコク
平成14年 (2002年)上に戻る▲
12月ガイシ
11月シャジン
10月エンメイソウ
9月ゼンタイ
8月コウイ
7月カッコウ
6月キンギンカ
5月ホコウエイ
4月ウヤク
3月ゴボウシ
2月サンザシ
1月キバンとベッコウ
平成13年 (2001年)上に戻る▲
12月ビャクゴウ
11月チョウジ
10月ジフシ
9月テンモンドウ
8月ホオウ
7月テンマ
6月ビャクシ
5月エンゴサク
4月オウヒ
3月センナ
2月トウヒ
1月セキショウズ
平成12年 (2000年)上に戻る▲
12月シコン
11月キクカ
10月ボレイ
9月トウガラシ
8月ケンゴシ
7月オウセイ
6月セキショウコンとショウブコン
5月ウコン
4月カンシツ
3月シテイ
2月カンゾウ
1月イレイセン
平成11年 (1999年)上に戻る▲
12月チモ
11月アキョウ
10月リュウコツ
9月ショウマ
8月トウジン
7月ケイガイ
6月チョレイ
5月トチュウ
4月セッコウ
3月オウギ (2)
2月タンジン
1月チョウトウコウ
平成10年 (1998年)上に戻る▲
12月ゴオウ
11月チクセツニンジン
10月ランソウ
9月ハッカ
8月シュクシャ
7月コウブシ
6月インチンコウ
5月クコ
4月ボウイ
3月カロコン
2月サンヤク
1月ケイヒ
平成9年 (1997年)上に戻る▲
12月リュウタン
11月タイソウ
10月ショウキョウ・カンキョウ
9月ハイショウ
8月モクテンリョウジツ
7月ボウコン
6月センコツ
5月レンセンソウ
4月バイモ
3月マクリ
2月マシニン
1月ナンテン
平成8年 (1996年)上に戻る▲
12月チクヨウ
11月ニンジン
10月エイジツ
9月ヨクイニン
8月ウバイ
7月ダイオウ (2)
6月ブクリョウ
5月インヨウカク
4月ロートコン
3月シンイ
2月セネガ
1月シャゼンシとシャゼンソウ
平成7年 (1995年)上に戻る▲
12月オンジ
11月アマチャ
10月キササゲ
9月ニガキ
8月ケツメイシ
7月ゴシツ
6月ソヨウ
5月オウギ
4月ソウハクヒ
3月ゴミシ
2月クジン
1月モクツウ
平成6年 (1994年)上に戻る▲
12月ガジュツ
11月サンキライ
10月ボウフウ
9月ジュウヤク
8月ゲンノショウコ
7月カゴソウ
6月サンシュユ
5月ゴシュユ
4月トウニン
3月キョウニン
2月サンシシ
1月サイシン
平成5年 (1993年)上に戻る▲
12月トウキ
11月センキュウ
10月オウレン
9月ハンゲ
8月コウカ
7月サイコ
6月ボタンピ
5月シャクヤク
4月レンギョウ
3月ビンロウジとダイフクヒ
2月キジツとキコク
1月チンピとセイヒ
平成4年 (1992年)上に戻る▲
12月ソウジュツとビャクジュツ
11月バクモンドウ
10月サフラン
9月キキョウ
8月ジギタリス
7月ウイキョウ
6月オウゴン
5月タクシャ
4月ジオウ
3月モッコウ
2月クズ
1月ダイオウ
平成3年 (1991年)上に戻る▲
12月マオウ
11月コウボク
10月オウバク

生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【王不留行(オウフルギョウ)】  平成30年10月10日号より

基源:ナデシコ科(Caryophyllaceae)のドウカンソウ Vaccaria segetalis Garcke (= V. pyramidata Medik.) の種子、あるいは同科のヒメケフシグロSilene aprica Turcz. ex Fisch. et C.A.Mey. の全草。

 生薬には多少の異物同名品があるものですが、今回のテーマの王不留行には実に様々な異物同名品が存在します。異物同名品とは、基源(原動植鉱物の種類、薬用部位、加工調製方法など)が異なっているにも関わらず同じ名称が付けられている品目です。今回の王不留行の原植物は植物分類の「科」をまたぎ、また薬用部位も様々です。

 王不留行は、日本薬局方には収載されていませんが、中華人民共和国薬典(2015年版)ではナデシコ科のVaccaria segetalis(中国名:麦藍菜、和名:ドウカンソウ)の成熟種子を乾燥したものが規定されています。生薬の形状は球形で直径約2 mm、表面は黒色でやや光沢があります。表面には顆粒状の突起があり質は硬く香りはほとんどありません。異物同名品の中で同じく種子に由来するものとして、マメ科のカスマグサ Vicia tetrasperma、スズメノエンドウ Vicia hirsutaVicia sativaVicia angustifolia などがあります。これらはいずれも黒褐色の種子で、Vaccaria segetalis の種子と類似しています。大型の果実に由来するものとして南方ではクワ科のオオイタビ Ficus pumilaやノボタン科のノボタンMelastoma candidum などが使用されています。また、台湾ではノボタンやミカンソウ科のヒラミカンコノキGlochidion rubrum Blumeその他の木質の茎が使用されてきました。また、全草に由来するものとしてオトギリソウ科のトモエソウ Hypericum ascyronH. sampsoni、アオイ科の Sida rhombifolia などがあります。日本でも以前はオオイタビの果実で縦に2分割され種子が除かれたものが使用されていました。『原色和漢薬図鑑』(難波恒雄、1980)にもオオイタビ由来の生薬の写真が掲載されています。これは、当時多くの生薬が香港から輸入されていたことを示しています。以上のように、王不留行には多種多様の異物同名品がありますが、古来の正品に関しては未だに不明です。

 一方、韓国市場の王不留行はナデシコ科のフシグロの仲間の全草です。牧野富太郎博士は漢名の王不留行にヒメケフシグロ Silene aprica (= Melandrium apricum ) をあてています。中国の本草書を見ると薬用部位に関する最も古い記述は『図経本草』に「5月内採茎」とあり、元は全草生薬であったようです。同書には「葉は尖って小さい匙の頭のようだ。また槐葉に似たものもある。四月に黄、紫色の花を開く(中略)河北に生じるものは葉が円く、花は紅色で、この物と少し違う」と記され、Silene属には赤い花や白い花などがあり、牧野博士は良く似た植物の中からヒメケフシグロと比定されたのでしょうか。

 薬効に関しては、初出の『神農本草経』に「主金瘡止血逐痛出刺除風痺内寒」、『名医別録』に「止心煩鼻衂癰疽悪瘡瘻乳婦人難産」とあり、外傷出血や鼻血の止血、棘、悪性の腫れ物、月経不順、難産などの要薬とされてきました。現在に伝わる処方として王不留行散が知られ、その組成は出典によって大きく異なりますが、王不留行を主薬として5〜11種類の生薬からなり、一般に黒焼きが多く用いられます。黒焼きにするのは止血効果を高めるためと考えられます。王不留行散を日本で作る場合には、ヒメケフシグロは日本では希な植物なので、フシグロSilene firma Siebold et Zucc. の全草で代用されているようです。これも新たな異物同名品ということになります。

 現在中国で使用されているドウカンソウはヨーロッパ原産とされる1年生あるいは2年生の草本植物です。日本には江戸時代に中国から渡来し、江戸の道灌山(どうかんやま)の薬園で栽培されていたことが名称の由来とされることから、当時の中国では既にドウカンソウが使用されていたことが窺えます。茎は直立し高さ30〜60 cm で円柱形、フシグロに似て節はややふくれ、葉は対生して卵状から線状披針形、花は淡紅色で先が浅く裂した5弁花です。薬用部位は種子ですが、薬効的には古来と同様に使用され、問題は無いようです。多くの異物同名品が存在するのは、本草書の記載内容が曖昧なことと同効生薬の探索に試行錯誤した結果であったのでしょうか。

(神農子 記)

 ※弊社「王不留行」はドウカンソウの種子を基源としております。