ホーム > 漢方・生薬について > 生薬の玉手箱 > 五十音順検索 【枳実(キジツ)と枳穀(キコク)】
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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【枳実(キジツ)と枳穀(キコク)】  平成5年2月15日号より

基源:ミカン属植物 Citrus spp.(ミカン科 Rutaceae)の果実、幼果を「枳実」,更に成育の進んだ未熟果を「枳穀」とする。

 Citrus 属植物の原産地は日本の南部地域をも含めた東アジアの
熱帯で,果樹としての栽培品種はこれらの野生種あるいは栽培種の
枝変わりや突然変異株から選別されたものです。

また,苗木は主に接ぎ木により生産されますが,台木の影響が現れ
ることもあり,その品種レベルでの分類は極めて困難になっています。

 植物分類学的な難しさのみならず,生薬市場においてもそれらの
果実に由来する「枳実」と「枳殻」の基源が大変混乱しています。
以下にわが国の生薬学の参考書等の記載内容をいくつか挙げてみた
いと思います。

 ○枳実は自然落下した未熟果(大きいものは二半切り)を乾燥し
  たもので,枳殻は成熟に近い緑色果実を二つに横切りにして乾燥し
  たものである。
 ○日本市場の枳実は未熟橙皮で,枳実(丸のまま)と枳殻(二つ
  割)とに大別する。
 ○日本においては,枳実はダイダイ,ナツミカン,ミカン,ある
  いは近縁植物の未熟果またはその横半切品を乾燥したものである。
  未熟果そのままの「枳実」と二割した「枳殻」に大別される。
 ○枳殻はカラタチの未熟果実を3から4片に輪切りしたものであ
  るが,日本の市場で枳殻,枳実とされるのはほとんど未熟橙実である。
 ○枳殻はカラタチの未熟果実である。しかし現在ではダイダイ,
  その他の未熟果(未熟橙実)である。

 枳実は『神農本草経』中品収載品で,枳穀は『開宝本草』収載品
です。歴代の本草学者の意見を総合しますと,「同一植物の未熟果
実を枳実,成熟果実を枳穀として利用するが,その効能はほぼ同様
である」ということに落ち着くようです。しかし原植物は10種類
以上に及ぶとされており,その形状はそれぞれ異なっており,切り
方のみならず大小も様々です。現在の中国市場品を見るかぎりはい
ずれの枳実も枳穀も皮(果皮)が厚く,ダイダイの仲間 C.aurantium L.
やイチャンレモン C.wilsonii Tanaka が主たる原植物のようです。

一方,日本市場品は日本産のダイダイ C.aurantium L.subsp.amara Engl.
やナツダイダイ C.natsudaidai Hayata の未熟果実で,小さめで
丸のままのものを枳実,大きめで半割したものを枳穀としています。
また,他に原植物としてウンシュウミカン C.unshiu Mar.も挙げ
られていますが,ウンシュウミカンの果皮は熟すと薄くなるため,
枳実として未熟果を利用することはできても枳穀として成熟果を利用
するのは無理なように思われます。

 以上のようなことをまとめますと,多くのミカン属植物の未熟果実
は枳実として利用でき,成熟果実の果皮の厚い品種のみが枳穀として
利用できるものと考えられますが,現在市場にはかなり果皮の薄い枳
穀もあります。

ただし,原植物にカラタチ Poncirus trifoliata Raf.を充てるの
は日本の本草学者の誤りであり正しくないとされ,このものは表面に
細かい柔毛があることで他と容易に区別がつきます。

 さて問題はこれらの異物同名品の効能ですが,李時珍は「枳実・
枳殻は,気味,功用ともに同じである。上代にも区別はなかった。
枳実・枳殻を区別するようになったのは,魏晋以来である。張潔
古氏,李東垣氏は,高いところの物を治すのと下のものを治すのと
に使い分けたが,そもそもその効はみな気を利することにある。
気が下がれば痰喘は止まり,気が行れば痞脹は消え,気が通れば痛刺
は止まり,気が利すれば後重は除かれる。ゆえに枳実は胸隔を利し,
枳殻は腸胃を治するのである。そうであったから張仲景は胸痺痞満を
治する主要薬を枳実とし,下血,痔痢,大腸秘塞,裏急後重などの治
療薬に枳殻を通用しているのだ。

よって,枳実はただ下を治すだけでなく,枳殻も高いところを治する
だけではない。そもそも口から肛門までみな肺が主り,三焦相通じて
一気であることを思えば,枳実と枳殻は分けても分けなくてもよい」
と記しており,両薬物を厳密に使いわける必要はなさそうです。

原植物としても,古来両生薬ともに産地による品質の優劣があまり論
じられてこなかったことから察して,薬効的に多少の強弱があるにせ
よ,いずれを用いても良いように考えられます。

ただし「陳皮」と同じく,あくまでも六陳の一つに数えられる生薬で
あるからには,陳旧品を使用するよう心がけたいものです。
(神農子 記)