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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【遠志(オンジ)】  平成19年02月15日号より

基源:イトヒメハギPolygala tenuifolia Willdenow (ヒメハギ科Polygalaceae) の根。

 遠志はPolygala tenuifolia の根を基源とする生薬で,局方に収載されるセネガも同属植物です。日局への収載はセネガの方が早く,遠志はセネガと類似のサポニンを含有していることからセネガの同効薬として4局から収載されてきましたが,現在では去痰薬の製造原料とされるよりも,専ら「帰脾湯」,「加味温胆湯」,「人参養栄湯」など,神経症や不眠症の改善や健脾強壮を目的とした漢方処方に配合されています。

 遠志は『神農本草経』上品に「苦,温。咳逆,傷中を治し,不足を補い,邪気を除き,九竅を利し,智慧を益し,耳目を聡明にし,物を忘れず,志を強くし,力を倍にする。久しく服用すれば身体を軽くし,老衰しない。」と記載され,『名医別録』では「男性を利し,心気を定め,驚悸を止め,精を益し,心下の膈気,皮膚の中熱,および顔色と眼の黄色を去る。」と追記されています。やはり,中国医学では古来,精神安定や強壮薬として利用されてきたことが窺えます。

 現在中薬学では,養心安神薬に分類され,心神失養および七情内傷(過度の喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の精神の変化によって臓器を損なう)による動悸・不眠・多夢・不安・焦燥などに適する生薬であり,また散欝化痰に働き,肺の寒邪湿飲による咳に効果があるとされます。

 使用時の調製方法や部位について,陶弘景は「用いるには,心と皮を去る。すると一斤から三両だけしか用いる部分が得られないものだ。仙方でも用いるがそれは苗の小草である。」とし,古来「芯抜き遠志」が良質品とされてきたことがうかがえます。また,蘇頌は「古方では遠志(根)も小草(苗)も用いられるが,今の医家は小草を用いることは稀である。」と記載していますので,古くは遠志,小草ともに薬用に利用されていたようです。なお,小草の効能は益精補陰で,『神農本草経』に「葉名小草」とあることから,当初は葉のみが使用されていたと思われます。

 原植物については,『日本薬局方』ではP. tenuifoliaのみを規定していますが,『中華人民共和国薬典』では同属のP. sibiricaも遠志の原植物とされます。植物の形態について,陶弘景は「苗の形状は麻黄に似て青い。」と記載し,蘇頌は「根の形は蒿(ヨモギの仲間)の根のようで黄色い。苗は麻黄に似て青い。また畢豆(エンドウ)の葉のようでもあり,今の安徽省に産するものは花が赤く,根,葉ともに他産よりも大きい。商州に産するものは根が黒い。」,また李時珍は「大葉と小葉の二種類がある。」と記載するなど,宋代以降は複数の原植物が利用されてきたことが窺え,この2種とは現在中華人民共和国薬典に収載されるP. tenuifoliaP. sibiricaであったと推察されます。

 Polygala属植物は世界に約450種あり,花がかわいいので園芸植物として栽培されるものもあります。花は一見マメ科の蝶形花に似ていますが,マメ科とはそれほど近縁ではありません。中国には40種を超える本属植物があり,中でも遠志が分類されるPolygala亜属植物は20種弱が知られています。江西,雲南,貴州など,南方に種数が多く,東北部に産するものは,西北部や蒙古,ロシア極東部など広域にわたって分布するヒメハギP. japonica, P. tenuifolia, P. sibiricaなど数種に限定されます。これらのいずれもが薬用に供されてきたものと思われます。

 わが国江戸時代の『用薬須知』には,「和漢ともにあり皆真である。和に大葉小葉の二種がある。・・・・」と記されています。日本の本州には葉が大きな順に,カキノハグサ,ヒナノキンチャク,ヒメハギの3種類の同属植物が知られていますが,ここに言う二種が何であったかは不明です。あるいは,資源的にはヒメハギが普通に生えていて,かつ花が咲いた後に葉が大きく生長しますので,二種とはともにヒメハギであった可能性もあります。

 遠志はそれほど多くの国内需要がある生薬ではありません。また,『用薬須知』に言うようにヒメハギも遠志として使用可能であるならば,すでにセネガが栽培されていることから,遠志も国内で栽培供給が可能であるように思われます。

(神農子 記)