ホーム > 漢方・生薬について > 生薬の玉手箱 > 五十音順検索 【菱実(リョウジツ)】
五十音順
あ行か行さ行た行な行
は行ま行や行ら行わ行
【ア】上に戻る▲
アカメガシワ
アキョウ
アセンヤク
アマチャ
アマニン
アラビアゴム
アロエ
アンソクコウ
【イ】上に戻る▲
イレイセン
インチンコウ
インヨウカク
【ウ】上に戻る▲
ウイキョウ
ウコン
ウコン (2)
ウバイ
ウヤク
ウワウルシ
【エ】上に戻る▲
エイジツ
エキナケア
エンゴサク
エンメイソウ
【オ】上に戻る▲
オウゴン
オウギ
オウギ (2)
オウセイ
オウバク
オウバク (2)
オウヒ
オウフルギョウ
オウレン
オウレン (2)
オトギリソウ
オンジ
オンジ (2)
【カ】上に戻る▲
カイカクとカイカ
ガイシとビャクガイシ
ガイハク
ガイヨウ
ガイヨウ (2)
カゴソウ
カシ
カシュウ
ガジュツ
カッコウ
カッコン
カッセキ
カノコソウ
カミツレ
カロコン
カンショウコウ
カンゾウ
カンツイ
カントウカ
カントンニンジン
【キ】上に戻る▲
キキョウ
キコク
キササゲ
キクカ
キジツ
キバンとベッコウ
キョウカツ
キョウニン
キョウニン (2)
キンギンカ
【ク】上に戻る▲
クコ
クコシ・ジコッピ
クジン
クズ
クセキ
クレンシ・クレンピ
【ケ】上に戻る▲
ケイガイ
ケイヒ
ゲッケイジュヨウ
ケツメイシ
ケンゴシ
ゲンジン
ゲンチアナ
ゲンノショウコ
【コ】上に戻る▲
コウカ
コウカ (2)
コウブシ
コウベイ
コウボク
コウボク (2)
コウホンとワコウホン
ゴオウ
コオウレン
ゴシツ
ゴシュユ
ゴシュユ (2)
コショウ
コズイシ
コツサイホ
ゴボウシ
ゴマ
ゴマシ
ゴミシ
コロハ/フェヌグリーク
コンブ
【サ】上に戻る▲
サイコ
サイシン
サフラン
サフラン (2)
サンキライ
サンザシ
サンジコ・コウジコ
サンシシ
サンシシ (2)
サンシチニンジン
サンシュユ
サンショウ
サンズコン
サンソウニン
サンヤク
サンリョウ
【シ】上に戻る▲
シオン
ジオウ
ジギタリス
シクンシ
シコン
シツリシ
シテイ
ジフシ
シャクヤク
シャクヤク (2)
シャクヤク (3)
ジャコウ
ジャショウシ
シャジン
シャゼンシとシャゼンソウ
シャチュウ
ジュウイシとヤクモソウ
ジュウヤク
シュクシャ
ショウキョウ・カンキョウ
ショウキョウ・カンキョウ (2)
ショウコウとカイショウシ
ジョウザン
ショウズク
ショウバク
ショウマ
ショウリク
ショクエン・ジュウエン
ジョチュウギク
ジョテイシ
ジリュウ
シンイ
シンキク
ジンギョウ
ジンコウ
【ス】上に戻る▲
スイテツ
ス・クシュ
【セ】上に戻る▲
セイヒ
セキショウコンとショウブコン
セキショウズ
セキリュウカヒとセキリュウコンピ
セッケツメイ
セッコウ
セッコウ
セッコク
セネガ
センキュウ
ゼンコ
センコツ
センソ
センソウ
センナ
センプクカ
センブリ
【ソ】上に戻る▲
ソウキョウ
ソウジシ
ソウジュツ
ソウハクヒ
ソウハクヒ (2)
ゾクダン
ソボク
ソヨウ
【タ】上に戻る▲
ダイオウ
ダイオウ (2)
タイシャセキ
ダイズ
タイソウ
タイソウ (2)
タイゲキ
ダイフクヒ
タクシャ
タラコンピ
タンジン
【チ】上に戻る▲
チクジョ
チクセツニンジン
チクヨウ
チモ
チユ
チョウジ
チョウトウコウ
チョウトウコウ (2)
チョレイ
チンジュ
チンピ
【テ】上に戻る▲
テンマ
テンマ (2)
テンモンドウ
【ト】上に戻る▲
トウガシ
トウガラシ
トウキ
トウキシとケイジツ
トウニン
トウニン (2)
トウヒ
トコン
トシシ
トチュウ
ドッカツとキョウカツ
【ナ】上に戻る▲
ナンテン
【ニ】上に戻る▲
ニガキ
ニクジュヨウ
ニクズク
ニュウコウ
ニンジン
ニンドウ
【ハ】上に戻る▲
ハイショウ
バイモ
バクガ
ハクシジン・ハクシニン
ハクトウオウ
バクモンドウ
ハゲキテン
ハコシ/ ホコツシ
ハズ
ハチミツ
バトウレイ
ハッカ
ハマボウフウ
ハンゲ
バンショウ(トウガラシ)
ハンピ
バンランコン
ハンロウ
【ヒ】上に戻る▲
ヒハツ
ヒマシ・トウゴマ
ビャクキュウ
ビャクゴウ
ビャクシ
ビャクジュツ
ビャクゼン
ビャクブ
ビャッキョウサン
ビワヨウ
ビンロウジ
ビンロウジ・ダイフクヒ
【フ】上に戻る▲
フクボンシ
ブクリュウカン
ブクリョウ
ブシ
フヒョウ
ブンゴウ
【ヘ】上に戻る▲
ベラドンナコン
ヘンズ
【ホ】上に戻る▲
ボウイ
ボウコン
ボウショウ
ボウチュウ
ボウフウ
ボクソク
ホコウエイ
ボタンピ
ホミカ
ボレイ
ボレイ (2)
【マ】上に戻る▲
マオウ
マクリ
マシニン
マンケイシ
【モ】上に戻る▲
モクツウ
モクツウ (2)
モクテンリョウジツ
モッコウ
モッコウ (2)
モツヤク
【ヤ】上に戻る▲
ヤカン
ヤクチ
ヤミョウシャ
【ユ】上に戻る▲
ユウタン
【ヨ】上に戻る▲
ヨウバイヒ
ヨクイニン
ヨクイニン (2)
【ラ】上に戻る▲
ライフクシ
ラクセキトウ
ランソウ
【リ】上に戻る▲
リュウガンニク
リュウコツ
リョウキョウ
リョウジツ
【レ】上に戻る▲
レイシ
レンギョウ
レンセンソウ
【ロ】上に戻る▲
ロウドク
ロートコン
ロホウボウ

生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【菱実(リョウジツ)】  平成30年3月10日号より

基源:ヒシ科(Trapaceae)のヒシ Trapa japonica Flerow またはその同属植物の成熟果実を乾燥したもの。

 「君がため浮沼の池の菱摘むと我が染めし袖濡れにけるかも」

 これは柿本人麻呂歌集に詠まれているヒシを題材にした男女の恋歌です。いとしいあなたのために浮沼の池の菱を摘んでいたら私の染めた袖を濡らしてしまいました、との意味で、ヒシは生育する湖沼の富栄養化にも強く、純群落を形成して池一面を覆っている風景をよく見かけます。古来、身近な食用植物であったのでしょう。

 ヒシは東アジアに広く分布し、日本では北海道から九州まで自生しています。水底に根を下ろし、そこからときに2mを超える長い茎を伸ばし、水面に浮葉がロゼット状に展開し、葉身は菱形や丸みのある三角形で粗い鋸歯があり、長さ2〜5cm、幅2〜8cmです。葉柄の中ほどがふくれて浮きになっています。夏には各ロゼットに1〜2個の直径約1cm の4弁の白い花をつけます。棘のある独特の形をした果実は全体の幅が2〜5cmで、様々な形があり、左右の2本のとげ以外に前後に突起が発達する型もありイボヒシと呼ばれています。ヒシ属の分類は主に果実の形態によって行われますが、その形は多様で新種や新変種が次々と報告されています。ちなみに、果実に4本のとげがあり幅が2〜3cmのものをヒメビシ、3〜5cmのものをオニビシ、オニビシに似て葉柄が帯紅色で葉に毛が少ないものをメビシと呼んでいます。

 薬用としてのヒシは『名医別録』の中品に「芰実」の原名で収載されています。蘇頌は「芰は菱実のことである。旧くは産地を記していないが、今は処々にある。葉は水上に浮かび、花は黄白色で、花が落ちて実を生じ、漸次水中に向かって熟する。実には二種あり、一種は角が4本で、一種は2本である」と記し、明らかにヒシ Trapa japonica またはその同属植物の果実を示しています。李時珍は「その葉が支散しているものだから文字は支に従うのだ。その角が稜峭たるものだから蔆というのだが、俗に蔆角とも呼んでいる。昔は一般に区別していなかったが、ただ王安貧の武陵記に、三角四角のものを以って芰とし、両角のものを蔆としている」と述べ、果実の形の多様性について述べています。

 『食療本草』には「菱実は仙人が蒸して粉にして蜜を和えて食する。生で食せば薬性は冷利である。多食すれば人の臓腑を冷やし、陽気を損傷し、莖を痿えさす」と多食をいさめており、李時珍は「暑を解し、傷寒積熱を解し、消渇を止め、酒毒、射罔の毒を解す」と解熱、解毒の薬効を記載しています。現在では滋養強壮や解熱薬として用いられ、漢方処方には配合されていません。果実以外にも茎は「菱茎」、葉は「菱葉」、果柄は「菱蒂」、果皮は「菱殻」、果肉からとったデンプンは「菱粉」と呼ばれ、それぞれ薬用にされています。また、ヒシの実は食用としても利用され、中国ではさかんに栽培されています。栽培されているものとしては、食べやすいように大きくした品種改良種と思われるものや、とげのない果実をつけるツノナシビシ T. acornis などがあり、茹でて食べるのが一般的です。その味から英名は「water chestnut:水栗」と呼ばれています。台湾では焼いたヒシの実を屋台で販売しており、アイヌ民族はヒシの実を「ペカンペ」と呼び重要な食料としていました。また、佐賀県では米麹とヒシの実を発酵、蒸留した菱焼酎が作られています。

 水生植物の果実に由来する生薬として、他にもハスに由来する蓮実やオニバスに由来する芡実などがあり、これらはみなデンプンを多く含み滋養強壮作用に優れています。しかし、前述したように菱実の多食は禁物で下痢や消化不良を引き起こします。また、生食することもできますが、まれに殻の中に寄生虫が入っていることもあることから注意が必要とのことです。

 

(神農子 記)