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生薬の玉手箱

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 【狼毒(ロウドク)】  平成29年1月10日号より

基源:白狼毒はトウダイグサ科(Euphorbiaceae)の Euphorbia pallasii Turcz. ex Ledeb., E. fischeriana Steud., E. ebracteolata Hayataなどの根を乾燥したもの.西北狼毒はジンチョウゲ科(Thymelaeaceae)の Stellera chamaejasme L. の根を乾燥したもの.広狼毒はサトイモ科(Araceae)のクワズイモ Alocasia odora Spach の根茎を輪切りにして乾燥したもの.

 狼毒は『神農本草経』の下品に収載され,「咳逆上気を主治し,積聚,飲食,寒熱水気を破り,悪瘡,鼠廔,疽蝕,鬼精,蠱毒を治し,飛鳥,走獣を殺す」とその効用が記されています.実際にオオカミ対策に使用したかどうかはわかりませんが,狼毒は『神農本草経』に記された薬効からはかなりの猛毒薬であったことがうかがえます.その有毒性を利用したとすれば同効の様々な毒草が利用されたことが想像され,そのためか古来異物同名品が多く存在していたようです.

 産地に関して『名医別録』には「秦亭の山谷及び奉高に生ず」とあり,陶弘景は「宕昌にも出る」といっています.秦亭は今の隴西で,宕昌とともに甘粛省に位置します.謝宗万氏は甘粛省の蘭州,武都,宕昌などで市販されている狼毒を調査した結果,すべてジンチョウゲ科の Stellera chamaejasme の根であったと報告しています.しかし,『名医別録』にあるもう一つの産地の奉高は現在の山東省にあり,Stellera 属の分布は見られません.植物地理学的に考えると,この地から産するものは現東北地方市場の白狼毒の原植物 Euphorbia pallasii あるいは E. ebracteolata であったろうと考えられます.『図経本草』に描かれた石州狼毒の図は根頭に茎が叢生していることからは,Stellera 属ともEuphorbia属とも受け取れますが,花の形はどちらかと言うとEuphorbia属に似ています.

 明代になると李時珍は「今の人は住々草䕡茹をこれにあてるが,誤りである」といっています.この草䕡茹は『本草綱目』の記文からも明らかに Euphorbia 属のもので,この頃の狼毒の主流はEuphorbia 属であったようです.清代の『植物名実図考』には「本草書の狼毒は皆はっきりしない(中略)滇南に土瓜狼毒がある」と記され,また,草䕡茹の項に「滇南では土瓜狼毒と呼ぶ」とあり,このものは Euphorbia prolifera であるとされています.ところが,一時期日本に輸入されていた香港市場の狼毒はこれらの植物とは全く異なり,サトイモ科のクワズイモ Alocasia odora の地下部を基源とするものでした.これは『植物名実図考』の狼毒の項に「紫茎南星を之に充てる」と記されているサトイモ科の天南星の類(Arisaema 属植物)のものと考えられ,それが次第に飲片の形状がよく似て収量の多いクワズイモに代わったとされています.

 以上の三つの科にまたがる原植物は形態的にはかなり異なります.Euphorbia 属には白い乳液があり,Stellera 属は小さいがきれいな花を咲かせ,クワズイモは他に比べるとはるかに大型になるなどです.それらに共通する有毒性がこの生薬の本質であるとすれば,やはり有害動物対策に使用されたことが考えられます.蒙古では今でもオオカミを駆除するために動物の肉に有毒物質を混ぜて利用すると聞きます.オオカミがいない南方の地では殺鼠剤として使用されていたのでしょうか.

 現在,狼毒は専ら外用薬としてリンパ腫脹や疥癬などに用いられますが,内服薬としては,逐水,去痰,消積などの作用があるとされ,心下が塞がっておこる咳嗽,胸腹部の疼痛などに他薬とともに用いられます.

 実は,狼毒は正倉院の『種々薬帳』に記載があり,奈良時代には既に渡来していたようです.現在では稀用生薬ですが,当時は重要な生薬の一つであったものと考えられます.今では現物が失われて原植物が何であったかは定かではありませんが,時代から考えるとStellera 属であったように思われます.鑑真和尚が敢えて日本にもたらす薬物の中に狼毒を選んだと考えると,今となっては窺い知れない何か別の理由があったようにも思われます.

 

(神農子 記)