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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【夏枯草(カゴソウ)】  平成6年07月15日号より

基源:ウツボグサ Prunella vulgaris Linne var. lilacina Nakai (シソ科 Labiatae)の花穂.

 淋病と云えば,昨今は淋菌による性病を意味しますが,本来は排尿時の不快感や残尿感など淋病に似た排尿障害を幅広く意味する言葉でした.昔はそうした淋疾患が多かったのでしょうか,俗に「小便薬」と呼ばれる利尿を目的とした生薬が非常にポピュラーでありました.今回話題に取り上げました「夏枯草」もその一つです.

 夏枯草は『神農本草経』の下品に収載された薬物です.その原植物は日本薬局方ではシソ科のウツボグサであるとされ,『図経本草』記載の徐州夏枯草の付図からも明らかにウツボグサであると思われます.ウツボグサの分布域は広く世界中におよび,リンネが記載した基準種の Prunella vulgaris はヨーロッパ産の植物です.ドイツでもブルネレと呼んで薬用にしており,全草を煎じて結核,胃潰瘍,糖尿病などに内服されるようです.成分としては他の多くの利尿薬と同様,大量のカリウム塩を含み,利尿作用を示すものと考えられています.他に防腐作用を持つような物質の存在が知られていないところから,淋病に用いられたのは尿路を頻繁に洗い流すことが目的であったと考えられます.

 夏枯草の薬用部位は現在薬局方には「花穂」と規定されていますが,従来は全草生薬であったようです.現在のように花穂のみが使用されるようになったのは清代になってからで,見栄えのよさという商品価値的な理由であったのではないかとする研究報告もあります.実際,民間薬としては,日本,韓国,台湾などでは今でも全草が使用されていて,花穂ばかりを集めた商品に比べますと雑な感じがしないでもありません.なお,昨今の日本市場は中国からの輸入品ばかりが出回り,すべて花穂のみの商品です.薬局方の記載もこうした事情を反映したものと考えられます.

 先述のように夏枯草は古来重要生薬であり,またどこにでも見られる一般的な植物であったため,わが国の本草書にもかなり具体的な記載が見られます.現在の市場の状況からしても原植物はウツボグサで問題はなさそうですが,本草書の中には違った意見が述べられています.

 稲若水は「葉は金沸草に似て裏に紫条あり,花は微紅,空穂草(ウツボグサ)に似て長く,ウツボ草には有らず.ウツボ草は用いて功なし」とし,小野蘭山は「今薬肆に売る所の夏枯草みなうつぼぐさなり,然れどもうつぼぐさは除州夏枯草にして真物にあらず.--- 此草夏枯れず夏至以後始めて花あり.夏枯草の名に稱はず.しかれども効用は近にして代用するゆえに除州夏枯草という」と述べ,原植物にジュウニヒトエ(同じシソ科の Ajuga nipponensis Makino)を充てています.一方,『用薬須知』には「和名ウツボグサ.本草ニ夏ニ入リテ枯ルトイウ.今ノ靭草ハ枯レザルヲ以テ疑イテ真ニ非ズトスル人アリ.之詳審ニ之ヲ考窮セズノ誤也.此ノ物新苗已ニ生ジテ舊根枯ル.此新旧相代ワルナリ.夏ニ入リテ枯ルルノ説ニ能ク合ス.是真ナリ.疑ウベカラズ.一種救荒本草ニ出ズル所ノ夏枯草アリ.審ニ之ヲ察スルニ此レ紫背龍芽ノ一種ニシテ恐ラクハ真ノ夏枯草ニアラズ.且ツ和邦古ヨリ靭草ヲ用イテ毎々経験アリ.宜シク靭草ヲ用ユベシ」とウツボグサが正品であると記載されています.

 夏枯草の原植物がウツボグサであったかあるいはジュウニヒトエの仲間であったかは論議の別れるところです.石戸谷保氏は,韓国市場で Ajuga(キランソウ)属植物を基源とする夏枯草を入手したと報告しており,また『本草綱目拾遺』の「白毛夏枯草」は「葉梗は夏枯草と同じだが,ただ葉上に白毛がある」とあり,ジュウニヒトエの仲間であったようです.ただし,1793年に幕府の求めに応じて中国から夏枯草の種子が持ち帰られ,播種育成したところウツボグサであり,従来の所用品と一致したとされていることから,やはり正品はウツボグサとするのが妥当なような気がします.わが国で種々論議されたのは,夏枯草の薬効がそれほど優れたものではなかったからかも知れません.中国でも『神農本草経』,『名医別録』以降は殆ど記載がなく,余り重要な生薬ではなかったようです.ただ,こうした原植物の誤認は「夏枯草」すなわち夏に枯れる性質に起因しているもとの考えられ,現在韓国で夏枯草として使用されているビャクダン科のカナビキソウもそうした例の一つです.

 なお,中国医学での薬効は「清熱明目」薬として肝胆の欝火を除くことによりそれにより生じたリンパ節結核や甲状腺腫瘍,耳下腺腫を治するもので,夏枯草の昨今のわが国での使用方法とは異なることを付記しておきます.

(神農子 記)