タラ根皮はタラノキの根の皮です。古くから我が国では糖尿病の民間薬として知られてきました。
原植物のタラノキは民間では薬用としてよりも山菜として有名な植物でしょうか。高さ4メートルほどになる落葉低木で,冬には鋭いとげだらけの茎がすっと立っているだけの姿ですが,春先にその先端から大型の芽を出し,この芽が競って採取されます。独特の香りと少々の苦みがあり,とくに天ぷらにすると美味とされます。山菜の王様と賞される所以です。
タラノキからすれば春先の芽を摘まれることははなはだ迷惑でしょうが,すぐまた別のところから芽吹きます。この精力的な回復ぶりを見ていると,この植物がチョウセンニンジンと同じウコギ科であることを思い出させます。ただし,この2番目3番目の新芽まで摘んでしまうと枯れるようですので,それなりのマナーが必要でしょう。
タラノキの属名はAralia で,ウコギ科の科名がAraliaceaeであることを知れば,タラノキがウコギ科を代表する植物であることがわかります。ちなみに,やはり強壮薬として知られるウコギの属名はAcanthopanaxです。Araliaceaeはウコギ科と訳すよりもタラノキ科とした方が適切なようです。葉は大型で2回羽状に分裂する葉を広げます。茎のみならず,葉の表面にもトゲがたくさんあり,山菜の季節を過ぎればどちらかと言えば嫌われ者の植物となります。トゲの多少には変化が多く,トゲのないものをメダラと称しますが,新芽は大味で山菜としてはトゲのあるものに比して劣るとされます。和名に関しては,タロウノキ(太郎の木)が訛ってタラノキになったとする説があります。
薬用に関する古典では,『本草拾遺』に?根の名称で収載され,白皮(根皮)に利尿作用があることが記されていますが,糖尿病を窺わせる記事は見当たりません。ただ,辛・平・有小毒とあり,現代中国でも民間的に糖尿病,リウマチ性関節炎,肝炎,胃痙攣,便秘などに利用されていますが,動物実験では薬用人参や刺五加の10倍程度の毒性があるとする報告もあります。糖尿病に服用するには,しばしば血糖値を測定するなどして,効果が得られないようなら長期間にわたる連続使用は避けるべきでしょう。1日量は10〜20グラムとされます。なお,一般にはイチイの枝・葉や連銭草(カキドウシ)の全草を配合して用いられることが多いようです。
昨今は我国では糖尿病患者が増え,国民病とまで呼ばれるようになっていますが,糖尿病患者の増加は日本に限らず,世界中の問題であるようで,尿が甘くなるその病態は古くから知られていました。漢方では糖尿病の多くは腎虚証と診断され,本生薬が腎陽不足を補うとされることから,糖尿病にも有効であることは察せられます。
タラ根皮の民間療法が我が国独自のものか否かは不明ですが,中国では「刺老鴉」の名称で東北部に限って根皮と樹皮が胃病,肝炎,糖尿病などに用いられています。このことを考えると,朝鮮半島経由で知識が伝来したとも考えられます。実際,韓国でも胃炎,腎炎,糖尿病などの治療薬とされています。なお,樹皮も同様に利用される他,我国では冬期から早春に採取された地上部の茎が「タラ木」と称して同様に利用されています。ラットを使った実験では,タラノキ木部の煎液がインスリンと類似した作用でグルコースの取り込みを促進し,血糖降下作用を示すとする報告もあります。