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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【艾葉(ガイヨウ)】  平成21年03月15日号より

基源:ヨモギ Artemisia princeps Pampanini 又はヤマヨモギ Artemisia montana Pampanini (キク科 Copmpositae)の葉及び枝先

 ヨモギ A. princeps は,春にいち早く新しい茎を伸ばし若葉を開きます。若葉を茹でて混ぜ込んだ草餅や草団子は,美しい緑色で,独特な香りがあり,春の訪れを感じさせます。草餅はひな祭りには菱餅として飾られることもあり,春の行事には欠かせないものです。

 ヨモギは本州,四国,九州,朝鮮半島,中国に分布し,人家の周辺や山野の草地に普通にみられる多年草で,地下茎を伸ばして広がります。開いたばかりの若い葉は,両面が白色の毛で覆われますが,生長して植物の高さが約 50〜100 cm になると,葉の表面は毛がなく緑色になり,下面のみに毛が密生し白色を呈します。葉の基部に仮托葉があるのが特徴です。ヤマヨモギ A. montana は近畿以北の本州,北海道,サハリン,南千島の山地にみられ,ヨモギに比べて全体的に大型で,植物の高さは 1〜2 mになります。葉の基部に仮托葉がない点でヨモギと区別できます。ヨモギやヤマヨモギなどのヨモギ属 Artemisia の花は風媒花で,花粉が風で飛ばされやすいように,花は下向きに咲き,花粉の表面は突起がなく互いにくっつきにくくなっています。

 ヨモギ属には他にも薬用になる植物が多く,カワラヨモギ A. capillaris Thunbergは生薬「茵蔯蒿」の原植物で,ミブヨモギ A. maritima L. は駆虫効果があるサントニンを含んでいます。中国では「艾葉」として艾 A. argyi Levl. et Vant. の葉を用いることが中華人民共和国薬典で規定されています。

 ヨモギやヤマヨモギの葉の裏にある毛を集めたものが,灸治療に用いる「もぐさ」です。顕微鏡などで葉の横切片を観察すると,毛は柄の短いT字形をしていて,毛の部分は長くて互いに絡み合っています。そこで,茎葉が生長した夏に葉を採集し,よく乾燥させてから臼で搗くと,葉肉などは砕けて,絡み合った毛だけが綿のようにまとまります。それを何度かふるいにかけて精製して「点灸艾」を製造します。調製法や仕上がりの状態から,製品はいくつかの等級に分けられ,精製度の低いものが「温灸艾」です。

 「艾葉」は『名医別録』の中品に収載された生薬で,「あらゆる病に灸をする。煎じて用いれば,下痢,吐血,下部のちく瘡,婦人の漏血を止め,陰気を利し,肌肉を生じ,風寒をしりぞけ,人に子を有らしめる」と記され,古くから灸治療に用いられていたことがわかります。また,「艾葉」が配合される芎帰膠艾湯は,産後の子宮出血や虚弱者の下血などに応用されます。

 『本草綱目』では「艾葉」について,「凡そ艾葉を用いるには,久しく置いた古いものを修治して細軟にして用いなければならない。これを熟艾という。生艾を用いて灸を点じては肌脈を傷めるものだ。故に孟子に「七年の病に三年の艾を求む」といっている」と記し,また,「王安石の『字説』に「艾は疾を乂(おさ)(意義は治に同じ)め得るもので,久しく経たものほど善い」とある」と紹介しています。これらの文章から,艾(もぐさ)としては,年数を経たものを用いた方がよいことがわかります。

 また『本草綱目』には多数の附方が紹介されています。中風などに灸で治療する,傷寒・吐血・下血などに「艾葉」を煎じて内服する,咽喉の腫痛などに生の葉を搗いた汁を内服する,鼻血が止まらない場合に「艾葉」の灰を鼻に吹き入れる,歯痛に「艾葉」を焼いた煙で鼻や口の中を薫じる,などです。また"発明"の項には「老人で丹田の気が弱いもの,臍腹に冷を畏れるものには熟艾を布袋に入れたもので臍腹を覆い温めれば効果がある。寒湿脚気にもやはりこれを足袋の裏に挟むのがよい」と李時珍の意見が記されています。日本でも,同様の文章が貝原益軒の『大和本草』や岡本一抱の『和語本草綱目』に見られ,また現在でも民間で冷え性や痔疾の人に,乾燥した葉で座布団や腰あてを作って使用されるなど,本草綱目の影響が窺えます。このような先人の知恵を後世に伝えるためにも,今年の春はヨモギを摘んでいろいろと試してみたいと考えています。

(神農子 記)