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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【ジャコウ(麝香)】  平成24年12月15日号より

基源:シカ科(Cervidae)のジャコウジカ Moschus moschiferus の雄の麝香腺分泌物を乾燥したもの.

 麝香はジャコウジカから採集される高貴な動物生薬です.動物生薬として有名なものには他に,熊胆(ユウタン;ツキノワグマなどの胆汁を乾燥したもの),犀角(サイカク;インドサイなどの角),虎骨(ココツ;トラの骨)などがあり,これらも高価に取引されています.麝香や熊胆は「六神丸」や「奇応丸」などの家庭薬などに広く使用され,日本でも身近な生薬です.一方,薬用に限らず,また動物に限らず,高価に取引される野生生物は換金目的に乱獲され,今では絶滅に瀕しているものが少なくありません.現在ではそのような絶滅危惧種に由来する生薬はワシントン条約により商業取引が禁止されています.

 ジャコウジカはヒマラヤ山岳地帯(ネパール,ブータン)から中国のチベット,雲南省,四川省,などを中心に広く生息しています.山地動物でその行動は軽快,敏捷で,険峻な懸崖の峭壁や深雪上を走り,また森林中では常に倒木上を走行し,斜上した樹上を登る習性もあるとされます.夜行性で,視覚と嗅覚が敏感で,たいへん臆病な動物で,飼育も他の動物に比して難しいようです.シカ科に分類されますが,雌雄ともに一般的なシカが持つような大型の角はありません.その代わりに雄のジャコウジカは上あごの犬歯が大きく発達しています.そして,何よりも特徴的なのは,雄のジャコウジカは麝香嚢を陰部と臍の間にもち,分泌腺から強く香る分泌物を出すことです.交配期中に多くなることから,香りで雌を誘引するためだと言われています.遠くまで届かせるためか,現物を近くで嗅ぐと強烈なにおいがあり,『本草綱目』にも「麝は香気が遠くに射るものだ」とあります.

 麝香嚢と呼ばれる袋状の腺嚢は球形または楕円形で径3〜7センチ,外面は白色,灰色あるいは淡褐色の細短毛があり,中央に径2〜3ミリメートルの嚢口があり,これに対して毛が渦巻状に配列しています.かつての市販品は麝香嚢にはいった「玉麝香(タマジャコウ)」と中身だけの「身麝香(ミジャコウ)」がありました.玉麝香を得るためにはジャコウジカを殺して麝香嚢ごと摘出します.このため麝香の利用の高まりに伴い,ジャコウジカは急速に個体数を減少することになりました.現在では,生きたまま麝香嚢から分泌物のみを採取することも行なわれているようです.

 麝香は『神農本草経』の上品に収載されていることから,かなり昔から薬用とされていたことが窺えます.主治について,「悪気を辟け,鬼精物を殺し,三蟲,蟲毒,温瘧,驚癇を去る.久しく服すれば邪を除き,夢寤,魘寐せぬ」とあり,現在の薬効である高熱時の意識障害や脳卒中,痙攣発作,危急症状の改善などと共通点があります.その品質について『和漢薬の良否鑑別法及調製方』には「香気の強烈なる殆ど普通の麝香の香気にあらざるかの感じを起こす位に刺激の強いものがよろしい.その時に麝香らしき香気を感ずるのは,香気のうすいのを証するので良くありませぬ」とあります.このように,麝香の刺激臭は千分の一以下に薄めると芳香に変わります.唐,宋代にはその香気を香料として盛んに用いるようになり,これがヨーロッパや中近東にも伝わりました.

 現在,麝香というと生薬というより香水や化粧品を思い浮かべる人の方が多いかも知れません.ジャコウという名称は芳香を示す代名詞にもなり,ジャコウソウ(植物)やジャコウアゲハ(蝶)と名付けられたものもあります.本物の麝香はムスク,マスクなどとも称され,高級な香水の原料に使用されています.麝香の香りの主成分であるムスコンは1926年には構造が決定されていました.麝香は非常に高価なので,麝香と良く似た香気を持つ安価な「霊猫香(レイビョウコウ)」が構造決定の参考に使用されました.「霊猫香」はアフリカに生息するジャコウネコの分泌物です.本物の麝香の入手が困難になった現在,香水には合成ムスコンが使用されています.いつの日か,自然が回復し,再び資源を気にすることなく本物の麝香を薬用とし,また香りを楽しめる日が来るのでしょうか.

 

(神農子 記)