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生薬の玉手箱

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 【タイシャセキ(代赭石)】  平成24年4月15日号より

基源:酸化鉄(Ⅲ)(酸化第二鉄,Fe2O3)を主成分とする赤鉄鉱Hematiteの塊

 岡山県高梁市吹屋地区はベンガラに彩られた町並みを有しており,その美しさ故か映画の撮影地に幾度となく採用されています.昭和52年には国の重要伝統的建造物群保存地区に認定され,現在も観光客が絶えません.元々,吹屋地区は銅山を中心に栄えたようですが,幕末から明治時代にかけては,銅採掘の際の副産物である硫化鉄鉱石を用いて酸化鉄(Ⅲ),すなわちベンガラを大量に産していました.人工的なベンガラの生産としては日本で最初であったといわれています.同地区のベンガラはその色鮮やかさで有名であり,引く手あまたであったことが容易に想像できます.地区内に保存されている当時のベンガラを用いて,ある研究グループが鮮やかさの秘訣を検討したところ,粒子の細かさと少量の不純物によるものであることが判明しています.

 ところで,ベンガラの赤色は酸化鉄(Ⅲ)に由来しますが,同様に酸化鉄(Ⅲ)を主な発色源とする代表的なものに代赭があります.代赭はカラーコード#bb5520で表される褐色に似た色ですが,この「代赭」の名は鉱物「代赭石」に因むものと考えられます.『神農本草経集注』では代赭の項に「出代郡者名代赭」とあり,代郡(現在の河北省周辺)において産出していたため「代」の文字を用い,これに赤土を意味する「赭」を組み合わせ代赭としたようです.一説には,代郡の都の城門の下でとれた赤土が代赭であるとありますが,定かではありません.他にも須丸など多数の名称が認められることから,代赭石として薬用できる赤鉄鉱が各地に産したことが推察されます.では,古の人々は如何にして赤鉄鉱から代赭石を選抜していたのでしょうか.種々の本草書を見てみると,代赭石の名で上面に丸い粒が多数ある岩石が描かれています.加えて,『本草衍義』には「丁頭光澤堅實赤紫色者佳」,すなわち,釘の頭のような形が付随し光沢があって堅く充実している赤紫色のものが良いと表現されており,釘の頭のような形という表現は多くの本草書の図と一致します.現在でも丁頭のある「釘頭代赭」が良品とされます.この釘とは,現在一般的な頭が平らな釘ではなく,古城や寺院などで見られる頭の丸い大きなものです.一方,『本草蒙筌』には,代赭が得難い時は牡蠣を代用とするという旨の記載があり,生薬「代赭石」としての赤鉄鉱は得難かったことが考えられます.

 代赭石には補血,止血,収斂の効があるとされます.配合される代表的な処方として,代赭石とともに旋覆花(センプクカ,オグルマの小頭花),大棗,甘草,人参,半夏,および生姜が加えられる旋覆花代赭石湯が知られています.虚証で胃のあたりがつかえて下らない状態が慢性化したものに用いられ,多くは胃に関連する疾患(胃酸過多,胃拡張など)に応用されます.代赭石は日本薬局方に収載されておらず,また,国内年間消費量も800 kg程度と決して多くはありませんが,鉱物性生薬は植物に由来する生薬とは異なり栽培などの手段が取れない有限資源であり,将来にわたり資源を安定して供給する方法を検討する必要があります.

 代赭石は『神農本草経』の下品に収載されており,その後,数々の本草書に名を連ね,当然ながら日本の本草書にも散見されます.『本草正譌』の代赭石の項には「濃州赤坂山ニ出ルハ漢渡ト同ジ」との記載があります.濃州赤坂山とは現在の岐阜県大垣市金生山のことで,江戸時代から良質な石灰岩の産地として知られています.掘り出した石灰岩は,東海道本線支線(美濃赤坂―大垣)を経由して運びだし,セメント等に加工されているようです.一方で,古くは金生山において赤鉄鉱を産出していたことも知られています.金生山赤鉄鉱研究会によると,国内で製鉄が行われるようになったとされる6世紀以前から,金生山において製鉄が行われていたとのことです.薬用利用のきっかけが何であったにせよ,鉄の原料さえも薬として利用してしまう先人の知恵には,頭が下がる思いです.

 

(神農子 記)