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生薬の玉手箱

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 【桃仁(トウニン)】  平成22年03月15日号より

基源:モモ Prunus persica Batsch 又は Prunus persica Batsch var. davidiana Maximowicz(バラ科 Rosaceae)の種子

 「桃李不言下自成蹊(桃や李(すもも)は何も言わないけれども、その下には自然と道ができる)」とは、中国の『史記』に書かれている文章です。桃や李のように、美しい花をつけ、美味しい果実を実らせる樹木には、自然とその下に道ができます。この文章は、桃や李を人格のある人に例え、徳のある人物であれば多くの人がその徳を慕って集まってくるという、人生の教訓を込めてしばしば使われることわざです。この他に「桃」という字を含む言葉として「桃園の義を結ぶ(義兄弟の契りを結ぶこと)」や「桃源郷(世俗を離れた別天地、理想郷のこと)」があり、また鬼退治で有名な「桃太郎」も広く知られています。このように「桃」という言葉は、良い意味で使用されることが多く、昔から人々に愛されてきた樹木であることが伺えます。

 桃は『古事記』の中にも登場します。伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が、死んでしまった妻の伊邪那美命(いざなみのみこと)に会うために、黄泉国(よみのくに)へ行ったところ、約束を破って妻の変わり果てた姿を見てしまい、そのために、1500人もの黄泉国の軍勢に追われるという話に「桃」がでてきます。軍勢に追われた伊邪那岐命が、現世と黄泉国との境にある黄泉比良坂(よもつひらさか)にたどり着いた時に、そこに生えていた桃の実を3個取って投げつけたところ、黄泉の軍勢はことごとく退散します。そして伊邪那岐命は、桃の実に対し、「自分を助けたように、葦原の中国(なかつくに)に生きているあらゆる現世の人々がつらい目に遭い、患い、悩んでいるときに助けてくれ」と告げ、そして桃の実を「意富加牟豆美命(おほかむづみのみこと)」と名付けたとされます。このような話は、「桃」には邪気を祓う力があるという考えに基づくものと思われます。

 「桃仁」は『神農本草経』の下品に「桃核人」の名で「瘀血、血閉、癥瘕、邪気をつかさどり、小虫を殺す」と収載され、桃核承気湯、桂枝茯苓丸などの繁用処方に配合される重要な生薬です。漢方医学では専ら「桃仁」が利用されますが、歴代の本草書中には、種子以外の部位も薬用とすることが記されています。「桃実」は、孫思邈によれば「肺の病に食べるとよい」とされ、「桃梟(樹についたまま冬を経ても落ちない実)」は、『神農本草経』に「百鬼精物を殺す」、『名医別録』に「中悪腹痛を療じる」と記され、「桃毛(果実の表面の毛)」は、『名医別録』に「血閉や血瘕などに用いる」とされます。また、「桃花」は、『名医別録』に「三月三日に採って陰乾する。人の顔を悦澤にし、水気を除き、大小便を利す」とあります。「桃葉」は、『図経本草』に「嫩(わか)いものを採る」とあり、『本草綱目』には「傷寒時気、風痺で汗がないものを療じ、頭風を治し、大小便を通じ、霍乱腹痛をとめる」と記されています。「茎および白皮(粗皮を去った樹皮、根皮)」は、『名医別録』に「邪気、中悪の腹痛を除き、胃中の熱を去る」とされ、また、「桃膠(樹液)」は、『名医別録』に「練って服すれば、中を保し、飢えず、風寒を忍ぶ」とあります。

 桃は日本でも民間的に様々な疾病に用いられてきました。打撲で、腫れて痛みがあるときには、桃仁をすりつぶし、患部につけるとよいとされます。また、花を用いるには、半分ほど開いた白花で、その年に採った新しいものがよいとされ、比較的体力がある人の下剤として用いられます。また花をすりつぶして、にきび、そばかすに塗布し、葉をすりつぶした汁を鼻にできたはれものにつけたり、回虫駆除薬として服用したりされました。葉を浴湯剤にすることもよく知られ、ふけとりやあせもによいとされます。

 このように桃は、中国および日本で、薬としてさまざまな部位が多方面に利用されてきており、邪気を祓う力だけでなく、病を癒す実力も兼ね備えた植物です。

(神農子 記)