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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【黄耆(オウギ)】  平成11年03月15日号より

基源:Astragalus membranaceus Bunge 又は Astragalus mongholicus Bunge (マメ科 Leguminosae)の根。

 黄耆は『神農本草経』の上品に収載された補益薬(補気薬)で、「味甘微温。主癰疽久敗瘡排膿止痛大風癩疾五痔鼠瘻補虚小児百病」と記載されました。現在でも「補中益気湯」「十全大補湯」「防己黄耆湯」など虚証を対象とした多くの重要処方中に高い割合で配合されています。華岡青洲方に収載されている「帰耆建中湯」での黄耆の役割も、気血を補い、肌を生かし、托裏排毒であるとされ、まさに『神農本草経』の記載のとおりです。李時珍は、「耆」には長の意味があり、黄耆は黄色で補薬の長であるから名前がついたと書いています。黄耆は中国人が人参以上に愛する補益薬です。

 黄耆にはいくつかの種類があります。それぞれ「綿黄耆」「紅耆(晋耆)」「土黄耆(木耆)」「和黄耆」などと称され、原植物が違っています。「綿黄耆」は現在黄耆の正品とされているもので、マメ科のキバナオウギ Astragalus membranaceus Bunge 又は ナイモウオウギ A.mongholicus Bunge の根とされます。また、「紅耆」はマメ科の Hedysarum polybotrys Hand.-Mazz.の根、「土黄耆」は中国安徽省や山西省に産し、やはりマメ科のムラサキウマゴヤシ Medicago sativa L.、シナガワハギ Melilotus suaveolens Ledeb.、コゴメハギ Melilotus albus Desr.などの根で、これらはすべて黄耆の代用品とされています。また、「和黄耆」はわが国に野生するイワオウギ Hedysarum vicioides Turcz.の根で、かつてわが国で黄耆が品薄のときに代用されていました。

 以上のごとく原植物は4属にわたっていますが、『図経本草』に「黄耆の茎は一本立ちし、叢生する。根皮を折ると綿のように繊維質であるので綿黄耆と言うのだ」とあるところから、Astragalus 属植物を正品としてよいように思われますが、花の色が「黄紫」と記されている点は合致せず、宋代にはすでに原植物が混乱していた現れのように思われます。上述の植物の中ではムラサキウマゴヤシのみが紫系の花を咲かせます。なお、AstragalusHedysarum は互いによく似ていますが、植物分類学的な相違は、豆果が Astragalus 属では全体的に膨れるのに対し Hedysarum 属では種子毎にくびれて節状になることです。『図経本草』の図には花も豆果もなく属を判断することはできませんが、清代に書かれた中国初の植物図鑑『植物名実図考』の図は 、豆果が全体的に膨れていることから Astragalus 属だと判断されます。

 Astragalus 属以外の黄耆のうち「紅耆」は、『中葯志』に黄耆とは別項に収載され、性味・功効は全く同じで、黄耆と同様に使用できるとされています。本品は古くから「晋耆」の名前で良質品として利用されてきたものです。この紅耆は中国の薬局方である『中華人民共和国薬典』では1977年度版には記載が見られますが、1985年度版以降は収載されていません。また和黄耆の原植物 Hedysarum vicioides も同様に利用できるとする書物もありますが、わが国では第8改正日本薬局方から純度試験の項で「内部形態的に繊維束の外辺にシュウ酸カルシウムの単晶を含む結晶細胞列のある」和黄耆は不適となりました。同時に、それまで良質品とされていた同属植物由来の紅耆も局方不適となりました。なお、品質的には、味がわずかに甘く、噛むと豆の香りがし、質は堅いが折れにくく、断面は繊維質で粉性に富み、内部は黄白色、外部の黄色いものが良質品であるとされます。

 黄耆の原植物の混乱は、マメ科植物の地上部や地下部の形態がよく似ていることに起因したものと考えられますが、一方で中国ではこれら原植物の異なる黄耆を同効品として扱ってきました。黄耆は、原植物が同属でなくとも同じ薬効を有する数少ない例なのかも知れません。日華子は「木耆の効能は黄耆とほとんど同じであるが、力が及ばないので倍量を用いればよい」としています。限りある資源の有効利用を考えるとき、こうした利用方法も選択枝として考えるべきかも知れません。

(神農子 記)