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五十音順
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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【ロホウボウ(露蜂房)】  平成23年11月15日号より

基源:スズメバチ科(Vespidae)のアシナガバチ亜科(Polistinae)のキボシアシナガバチ Polistes mandarinus Saussureあるいはスズメバチ亜科(Vespinae)のオオスズメバチ Vespa mandarinia Smithなどの昆虫の巣

 毎年夏の終わりから秋にかけて、ヒトがスズメバチに襲われるニュースを耳にします。ハチは自分たちの城である巣とその中にかかえている無数の卵や幼虫を守ろうとして攻撃しているのです。スズメバチは一つの巣の中で集団となって生活を営み、アシナガバチやミツバチの仲間も同様です。これらは社会性ハチともよばれ、基本的には、卵を産む女王蜂一匹あるいは数匹と、女王蜂の産んだ子供を育てるだけの役割をもつ多数の働き蜂とで構成されています。スズメバチでは、巣作りは春に一匹の女王蜂によって開始され、初夏に働き蜂が羽化しはじめ、夏から秋にかけて巣の個体数が最大になり、その頃になると、次世代を担う新女王蜂と雄蜂の幼虫が育てられます。秋は働き蜂の個体数が多く、次世代を担う幼虫をかかえて最も神経質になる時期でもあるため、外敵に対しても攻撃的になるのです。

 スズメバチ(スズメバチ亜科)は巣を、地面の穴や人家の隙間など閉鎖的な場所につくり、集団が大きくなり巣が狭くなった時などに、改めて人家の軒先などに巣をつくりなおすこともあります。枯れ木などを咬みくだいて細かくし、唾液と混ぜて練ったものを薄く延ばして巣をつくります。巣は六角柱状の小さな部屋(育房)が下向きに円板状に多数並んだ巣盤からなります。初期の巣では巣盤は一層ですが、最終的には10層以上になることもあり、巣内の個体数も数千匹に達します。巣盤の各層は支柱によって連結され、全体はすっぽりと外被で覆われます。アシナガバチ(アシナガバチ亜科)の巣は、基本的な構造はスズメバチと似ていますが、巣盤は一層のみで、一本の柄で木の枝などに固定されています。材料には、スズメバチのようなもろい木質繊維の細片ではなく、長い靭皮繊維を使い、耐久性が優れた巣をつくります。また、スズメバチのような巣盤を覆う外被は存在しません。ミツバチの巣も六角柱状の育房が多数つながった構造ですが、巣盤は水平ではなく垂直方向につくられます。またミツバチの体内でつくられた蜜?を主な材料としています。

 生薬「露蜂房」は、『神農本草経』の中品に「味苦平。驚癇瘛瘲、寒熱邪気、癲疾、鬼精、蟲毒、腸痔をつかさどる。火で熬るがよし」と収載されます。『新修本草』に「この蜂房は樹上に懸けられ風や露に当たったものを用いる。この蜂は黄黒色、長さ一寸ほどで、牛、馬、人がさされると死ぬほどである」とあり、また『本草衍義』に「露蜂房に二種ある。一種は小さく、垂れ下り、片側は房であり、低木の茂った蔭にあり、一般に牛舌蜂という。一種は高い木の上や屋下にあり、外側を固くつくり、中に窠があり、形状が瓠のようなところから、玄瓠蜂とよばれる。一般にこの両者を兼用している」とあり、薬用には風露にさらされた巣を用いるのがよく、また、牛舌蜂はアシナガバチ亜科、玄瓠蜂はスズメバチ亜科の巣を指していると思われます。現代では、中国では主にアシナガバチ亜科の巣を用いています。スズメバチの巣は、泥が多く、木質であることから品質が悪いとされています。一方、日本では、露蜂房は主に民間療法で使われ、スズメバチの巣を用いるのがよいとされてきました。スズメバチは他の昆虫と比較して体が強くて大きく、巨大な巣をつくるため、スズメバチの巣は縁起がよいものとして大切にする風習が日本各地に残っています。スズメバチの巣を好んで薬用に用いてきた理由にはこのような風習が関わっているのかもしれません。

 日本の民間療法では、「化膿性の腫れや痛みに、半分は生のままで、半分は炒って混合粉末として服用する。虫刺されに、粉末を水または胡麻油で練って貼る。粉末を蜂蜜で練って飲むと強壮剤となり、乳汁不足、麻痺などに効果がある。黒焼きの粉末を酒や甘酒で服用すると、乳汁不足、夜尿症、腎臓病などに効果がある。火傷、とびひには黒焼きの粉末を胡麻油で練って外用する」などの用い方が知られており、黒焼きとして用いることが多いのが特徴です。

 ハチは人間を刺すことから、怖い害虫という印象があります。実際に、日本で、野生動物による死亡事故が最も多いのは、スズメバチによるものです。一方で、ハチは、農業では害虫の天敵となり、花粉の媒介を行うなど重要な役割を果たし、また蜂蜜などの産物をもたらしてくれる益虫でもあります。私たちの先祖は、ハチの性質をよく観察して理解し、上手につきあってきました。時代がすすむにつれ、生活様式はますます変化していきますが、これまでに人間が貯えてきた野生動物とともに暮らしていくための知恵を学び後世に伝えていくことも大切でしょう。

 

(神農子 記)