ホーム > 漢方・生薬について > 生薬の玉手箱 > 五十音順検索 【濱榔子(ビンロウジ)と大腹皮(ダイフクヒ)】
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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【濱榔子(ビンロウジ)と大腹皮(ダイフクヒ)】  平成5年3月15日号より

基源:ビンロウ Areca catechu Linn. (ヤシ科 Palmae)の成熟種子(濱榔子)と成熟果皮(大腹皮)。

 ビンロウ(アレカヤシ)はインドあるいはマレーシア原産と
される高木性のヤシで、高さ20メートルに達し、現在では東
アジアの熱帯各地で果実を収穫するために広く栽培されています。

幹はまっすぐで青竹の様で、葉は羽状複葉となる。花序は肉質
房状で、果実は、房に150〜250個成り、熟すのに1年を要し、
成熟果実は卵形〜長楕円形で長さ3〜5cm、外面は橙色になり
ます。

果皮はヤシ殻を小さくしたようで繊維性、中に1個の堅い核(
種子)があり、成熟した果皮を「大腹皮」、種子を「濱榔子」と
して薬用に供するほか、未熟あるいは成熟種子は嗜好品として
咀嚼されます。

 現在、檳榔子を最も多量に産するのは、インドネシア、つい
でマレー半島です。マレー半島のリゾート地として有名なペナ
ン Penang は、マレー語で「濱榔子」を意味し、その輸出港と
して有名です。

また、漢名「檳榔」の「賓」と「郎」は、ともに貴客を意味し、
檳榔は賓客をもてなす榔(ヤシ科植物の総称)のことで、濱榔
子はベトナムでは婚礼儀式に欠かせないものとされ、また中国
南部でも以前は貴客をもてなす際には必ずこの実を差し出した
そうです。

今日でもアジアの熱帯各地で濱榔子が嗜好品として噛まれ、今
でも社交儀礼として濱榔子を差し出す習慣が多くの国で見られ
ます。

通常はコショウ科のキンマ Pipera betel L. の生葉と石灰と
共に咀嚼されますが、丁字や桂皮など他の香味料が加味される
こともあります。

 漢薬としての濱榔子は『名医別録』の中品に収載品され、気
を下降させ、水を巡らし、食を化す作用があり、また殺虫作用
もあります。

濱榔子に殺虫作用のあることは、本品が嗜好品として咀嚼され
るようになった大きな理由であったと考えられます。実際、台
湾で調査したところ、日頃濱榔子を噛んでいる人々には腸内寄
生虫感染者が少ないことがわかっています。

殺虫成分はアルカロイドのアレコリン arecoline と考えられ
ますが、一方では咀嚼者には咽頭癌、食道癌が多く発生してい
ます。これは石灰の作用でアルカロイドが遊離し口腔粘膜に損
傷を与えるためと考えられています。

一方の大腹皮には気滞を散じ、水湿を除く作用があり、腹部が
張って排便がスッキリしないのを治します。

 濱榔子と大腹皮の効能は互いに似ていますが、濱榔子の方が
行気の効能が強く、瀉下、殺虫の効能を持ち、大腹皮は止瀉の
効能を持つとされます。

 濱榔子が主薬となった処方に「九味濱榔湯」があり、浮腫を
初めとする脚気様症状を呈する水毒に多く用いられます。
また大腹皮は、夏風邪の吐き下しなどによく用いられる「カッ
香正気散」に配合されています。

 Areca 属植物は世界に54種あるとされています。濱榔子の
原植物としては、現在では A.catechu 1種のみが利用されて
おり、最も品質が良いとされています。

以前は数種類の他の同属植物が利用されていました。良く熟し
て堅く、扁平な球形〜卵形で、虫喰いのないものが良品です。
また、断面には白色と赤褐色の筋による美しい縞状紋理があり、
その白色部のはっきりしたものが良品とされます。小口切りす
るには火であぶって柔らかくしてから切りますが、水に浸して
柔らかくして切ったものの中には紋理がくすんでしまったもの
があり、不良品とされます。

なお、大腹皮としては A.catechu 以外にダイフクビンロウジ
ュ A.dicksonij Roxb. も利用されます。

 濱榔子も大腹皮もわが国では稀用生薬です。一般に稀用生薬
は良品質のものを安定供給することが困難なことが多いのです
が、濱榔子と大腹皮に関しては、嗜好品として大量に栽培され
ていることから、比較的容易に確保できる数少ない生薬といえます。
(神農子 記)