ホーム > 漢方・生薬について > 生薬の玉手箱 > 五十音順検索 【生姜・乾姜(ショウキョウ・カンキョウ)】
五十音順
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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【生姜・乾姜(ショウキョウ・カンキョウ)】  平成9年10月15日号より

基源:ショウガ Zingiber officinale Roscoe (Zingiberaceae) の根茎。

 いわゆるショウガは食品としてなじみが深く、またカゼをひいたときにショウガ湯を飲む民間療法などでもたいへん身近な生薬となっています。周知のようにショウガは熱帯に産する植物で、元はアーユルヴェーダ薬物であったものと考えられます。

 ショウガが中国の本草書に最初に記載されたのは『神農本草経』ですから、中国薬物としての歴史も古いと言えます。『神農本草経』には「乾姜」の名で中品に収載され、薬効は「味辛温。主に胸満 逆上気を主り、中を温め、血を止め、汗を出し、風湿痺や腸 痢疾を逐する」であり、このあとすぐ「生のものが尤も良い」と続き、乾姜は単にショウガを乾燥したものであったことが窺えます。この生(ナマ)のものが『名医別録』以降「生姜」として乾姜から独立し、同書で「生姜味辛微温。主に傷寒による頭痛、鼻塞、 逆上気などを主り、嘔吐を止める」と、乾姜とは僅かに異なる薬効が記され、以後時代が下るにつれて付記事項が増え、乾姜と生姜がかなり異なった薬物として認識されるようになりました。薬効的には、現代中医学では生姜は辛温解表薬で発汗により表邪を除く力が強く、乾姜は散寒薬で裏の寒を消す薬物とされています。

 現在わが国では一般に加工しない生のヒネショウガを「鮮姜」とし、コルク皮を去って乾燥したものを「生姜」、蒸して乾燥したものを「乾姜」としています。それに対し、現在中国では生(なま)のヒネショウガを「生姜」、そのまま(皮付きのまま)乾燥したものを「乾姜」としています。また生(なま)の生姜を乾燥したという意味でしょうか、わが国では中国の乾姜を「乾生姜」と称して、生姜として利用することもあり、日本と中国で名称と基源が混乱しています。

 乾姜の製造法について、陶弘景は「3日間水に浸して皮を去り、さらに6日間流水中に置いて皮を削り去り、日に晒して乾かしてから甕の中に置いてこれを醸す」とあります。この「醸す」がどういう状態なのかはっきりしませんが、甕にぎっしりと詰めてしばらく密封して放置したものと思われます。一方、生姜については記載がありません。生姜はやはり生(なま)すなわち新鮮品であったものと考えられます。また『図経本草』には陶弘景と同様の方法以外に、長流水にしばらく漬けた後にそのまま乾燥する方法が記され、現在の中国産乾姜がこのものに相当すると考えられます。このように乾姜には皮去り品と皮付き品が存在したようです。一方、陳藏器は同じ生姜でも「熱ならしめん時は皮を去り、冷ならしめん時は皮を留める」と皮の有無により使い分けると記しており、乾姜・生姜ともに基源は一定していなかったようです。

 ちなみにアーユルヴェーダでショウガを如何に利用してきたかを調べてみますと、「スシュルタ本集」の飲食物療法の項に「辛味・熱性を有し、食欲を進め、体風素(ヴァータ)及び粘液素(カパ)の不調を除き、食物調理の際諸種の調味料として使用する」蔬菜類の一種として挙げられ、さらに、シュリンガヴェーラ(乾姜)について「辛味あれども消化後甘味を呈し、粘液素及体風素の不調を去り、強精剤となり、熱性あり、食欲を進め、精神を壮快ならしめ脂肪質を増し、消化軽易、健胃剤となる」とあり、アールドラカ(生姜)については「辛味・熱性を有し、粘液素及体風素の不調を去り、聲に善く、便秘及び疝痛を医し、食欲を進め、快感を与え、強精剤となる」とあり、よく似ていながらも両者の薬効を区別しています。中国医学において両者を使い分けたのも、やはりアーユルヴェーダの影響なのかも知れません。ただし、生姜をより良しとしたのは、中国医学の中で、その発汗作用や去風湿作用を期待した結果なのでしょうか。

 以上、中国におけるショウガの薬用利用はアーユルヴェーダの影響を強く受けていますが、外来の薬物であるがゆえに混乱が生じやすかったのかも知れません。中国では古い時代には主として乾姜が利用され、時代が下るにつれて生姜も多用されるようになったようですが、このことも本来熱帯産で遠来の生姜を長期間保存することが困難であったことに起因していたのではないかと考えられます。ショウガを生のままで保存すると容易にかびが生えてくることは家庭でもよく経験することです。ショウガの栽培化が進むまではそのまま乾燥した乾姜を利用していた、というのが真実ではなかったかと思われるのです。

 また、乾姜を製する際に加熱するのはわが国独自の手法のようで、江戸時代から湯通ししたり蒸したりされており、当時良品とされた三河乾姜は中が飴のように赤色であったことが『古方薬品考』に記載されています。また同書には「乾き難い時には甕器の中に入れて加熱する」ことが記され、加熱はすなわち乾燥を容易にするためであったことが窺え、蒸す方法は現在に引き継がれています。現在わが国では生姜(乾生姜)・乾姜ともに大半を輸入品に頼っていますが、そのうち乾姜については、昨今は海外でわが国の手法で調製させたものを輸入しています。

 生姜と乾姜、両者の加工調製法や薬効の相違に関しては今少し検討する余地があるようにも思われます。

(神農子 記)