オトギリソウ科は世界に約50属1000種が知られる大きな科で、中でもHypericum属植物は世界中で切り傷などに用いられる重要な分類群です。日本で見られるオトギリソウ科植物はオトギリソウをはじめキンシバイやトモエソウなどの小型の植物が中心ですが、世界にはマンゴスチンなどの大型の木本もあります(APG分類ではフクギ科)。
オトギリソウは日当たりの良い山地や丘陵地に生える多年生草本で、高さは30〜60 cm、葉は対生し広披針形で長さ3〜5 cm、上面には黒色の油点である黒点が散在しているのが特徴的で、他の同属植物にしばしば見られる半透明な油点である明点はありません。7〜8月頃に茎頂の集散花序に直径1.5〜2 cmの黄色い5弁花が多数つきます。
日本では古くから民間薬として切り傷や腫れ物などに外用されており、江戸時代の『和漢三才図会』には「按ずるに弟切草、初生は地膚子の秧に似て、両面対生し、枝椏有って、茎葉之を揉めば汁が有って、暫くすれば紫色に変ず。六、七月に小黄花を開き、単への五弁にして細き蕊有り。莢を結ぶ。三つ稜有り、中に細子有り、黒色。味甘香美。茎葉金瘡、折傷及び一切無名の腫物に傅けて神効有り」とその植物形態と薬効が記されています。また、和名の由来に関しては「相伝う。花山院の朝に鷹飼有り。晴頼と名づく。其の業に精しきこと神に入る。鷹傷を被ること有れば、草を揉みて之に傅くれば則ち癒えゆ。人乞うて草の名を問えども之を秘して言わず。然るに家弟有り。密かに之を露洩す。晴頼大いに怒り之を刃傷す。此れ自り、鷹の良薬たることを知り、弟切草と名づく。」と、有名な俗説が紹介されています。この中にある植物形態に関する記載からはオトギリソウであると思われますが、Hypericum属植物は非常に種類が多く、他に良く似た植物がいくつかあります。「一種茎弱く起たず蔓の如く、而して葉花子は異ならず。葉畧小さく、其味辣強し」とアゼオトギリとも受け取れる記載もあります。実際、中国ではオトギリソウ以外にもヒメオトギリの全草を「田基黄」と称し、打身損傷、蛇咬傷、湿熱黄疸、小児の食積などに用いています。また、やや大型になるトモエソウは『植物名実図考』に「湖南連翹」として収載され、腫れ物や止血などに用いられます。しかし、「連翹」には異物同名が多数存在し、蘇敬は「連翹」の項で「大翹、小翹の両種がある」と言っており、この小翹は少なくともHypericum属のものと考えられており、日本市場では弟切草のことを「小連翹」とも称しています。また、ヨーロッパではセイヨウオトギリが古くから悪魔を祓う力があると考えられていました。聖ヨハネが処刑された8月27日頃に花が満開となるので、St. John's wart(聖ヨハネの草)と呼ばれ、聖ヨハネの日(6月24日)にこの草を戸口や室内につるし、魔除けにする習慣ができたと言われています。民間薬としての用途も多く、痛風、関節炎、夜尿症、生理痛などに内服され、また、湿布薬として切り傷に外用されるほか、花の成分を浸出させた油を神経痛や火傷に外用したり、少量を胃炎などに内服したりもされます。
日本の民間療法ではオトギリソウの全草を外用薬として用いています。生の葉や茎の汁を切傷や腫れ物の塗布薬に、煎液を打ち身や捻挫の湿布薬に使用します。含有成分としてタンニンやケルセチンの他、アントラキノン類のヒペリシンが知られています。ヒペリシンは紫外線を強く吸収する黒紫色素であり、花に最も多く含まれています。ヒペリシンには光線過敏症が知られており、これをウシ、ウマ、ヒツジなどの家畜が多量に食べて日光に当たると皮膚炎を起こして脱毛することがあるため有毒植物としても知られています。ヒトに対してもセイヨウオトギリは薬物相互作用のあることが知られており医薬品との併用に注意が必要ですが、ヒペリシンも含有するため、光線過敏症にも注意が必要です。