この生薬は「小豆蔲」よりも「カルダモン」の名称の方がよく知られています。カルダモンは古くからインド地方で薬用とされ、2世紀頃にはヨーロッパに伝えられました。古代ローマでは薬用の他、芳香剤や香水の原料としても重要なものになりました。供給元のインドでは経済的な重要性も含めて「スパイスの王・コショウ」に次ぐ意味で「スパイスの女王」と呼ばれています。アラビア半島地域では訪問者に歓迎の意を表するために質の良いカルダモンを見せて、それを使用したカルダモンコーヒーを振る舞うという習慣があるそうです。高価であったカルダモンには当然ながら様々な品質のもの、そして本来のElettaria cardamomum 由来のカルダモン以外に、別種の Amomum 属植物に由来する安価な代用品も存在します。最も良質とされるグリーンカルダモンはレモンのような爽やかな香りがします。
属名の「Elettaria」は原産地であるスリランカのMalabar 地方の現地名です。市場品はそれぞれ代表的な生産地ごとに Malabar Cardamomum(スリランカ産)、Mysore Cardamomum(スリランカ産)、Mangalore Cardamomum(インド・マラバル地方)などの名称があります。現在ではこれら以外にも東南アジアやアフリカ、中央アメリカなど、熱帯各地で広く栽培されています。
原植物はショウガ科の多年生草本で高さ約1メートル、大きいものでは4メートルを超えるものもあります。地下部の根茎は木質化しており、多くの偽茎を出します。葉身は披針形で長さ 30~100 cm、全縁、濃緑色で基部は長い葉鞘となり偽茎を形成します。花序は偽茎の基部から数本出て、長さ 50~120 cm、ほふくする系統や直立する系統があり、2~3個ずつ花を順次開きます。花はショウガ科特有の形状で唇弁は白色で赤紫色の模様が筋状に入ります。果実は約2cmの紡錘形から卵形のさく果です。果実の中は3室に分かれていて、薄い肉質の膜に包まれた黒色の硬い種子が15~20個入っています。この果実の部分が生薬になります。
生薬生産目的の栽培は、標高800~1,300 mの湿潤な土地で直射日光を避けて行われています。植栽して5~6年目で収穫適期を迎え、約17~18年が収穫限度のようです。季節に関わらず開花、結実しますが、2~3月頃の収量が多いと言われています。採集した果実を天日乾燥したものが生薬です。生薬は長楕円球形で長さ1~2センチ、径 0.5~1 cmです。外面は淡黄色で3本の鈍い稜と多数の縦線があり、一端には花柄に由来する 0.1~0.2 cm の小突起があります。果皮は薄く軽く繊維性です。種子は不整で角張った卵形を呈し、長さ 0.3~0.4 cm で暗褐色~黒褐色、種仁が充実して芳香の強いものが良品とされます。
小豆蔲は芳香性健胃薬として胃腸薬などの原料にします。また、漢方処方用薬として、健胃消化薬とみなされる処方に白豆蔲(ビャクズク)の代用に用いられています。白豆蔲もショウガ科 Amomum kravanh の果実に由来する生薬です。小豆蔲、白豆蔲はともに代表的なカルダモン(豆蔲)類生薬ですが、原植物や同類植物の多様性や類似性に基づく混乱があったことは、近年まで白豆蔲の原植物が Amomum cardamomum であったことからも窺えます。『中華人民共和国薬典』(2010)には「豆蔲」として白豆蔲が収載され、小豆蔲は収載されていません。『中葯大辞典』には白豆蔲の項目の中に同類生薬として小豆蔲が扱われ、「市場では白豆蔲として扱われるが品質はやや劣る」と記載されています。一方、『日本薬局方』には小豆蔲は収載れていますが「白豆蔲」は収載されていません。漢方処方の「香砂養胃湯」は、原典である『万病回春』では白豆蔲が配合されて、白豆蔲の代用に小豆蔲が使用されることもありますが、両生薬の薬効的な強弱など未だ不明な点が多いようです。