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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【呉茱萸(ゴシュユ)】  平成31年4月10日号より

基源:ミカン科(Rutaceae)のゴシュユ Euodia ruticarpa Hooker filius et Thomson、Euodia officinalis Dode又はEuodia bodinieri Dodeの未成熟果実。

 近年、生薬をとりまく環境は大きく変わりました。平成の終わりを迎えるにあたり、今回は様変わりした生薬の中からこの数十年で価格、原植物そして学名までもが変遷した呉茱萸を取り上げます。

 最近、生薬の販売価格が著しく上昇していますが、その1つに呉茱萸があります。日本での市場価格は5年前と比較すると2倍以上になっています。中国の生薬市場に行くたびに、現地でも原料価格が上昇していることを実感します。大きな生薬市場では通常は大口の取引が目的ですから、顧客は展示生薬から多少のサンプルを無償で提供してもらえることが常です。ところが昨年は呉茱萸だけは数g程度のサンプルに対して、ロットにより10元から20元(1元は約17円)を要求されて驚きました。呉茱萸の価格高騰の主な理由は 2010年代の価格低迷による減産が影響しているとのことです。在庫の減少を受けて中国の生産地では増産の取り組みを開始していますが、基源が木本植物の果実であることから収穫は数年先になります。現在、日本産の呉茱萸はほとんどありませんが、このような価格高騰を受けて日本でも生産の動きが始まってきました。

 日本に呉茱萸の原植物が伝えられたのは江戸時代享保年間とされています。当時導入された種は、現在、日本各地の植物園や薬草園に植栽されているE. ruticarpaで、しかも雌株のみであることが判明しています。この植物種は多くの走出枝を出すことから株分けにより容易に増やすことができ、導入株が雌株のみであったことから種子ができず、現在も日本には地下茎によりクローン増殖した雌株のみが育っています。なお、挿し木でも容易に増殖することができます。

 近年の日本市場品に流通している中国産呉茱萸の原植物は E. ruticarpaE. officinalis、そしてE. bodinieriの3種類に由来することが明らかにされています(Natural Medicines、 55、 7-10、 2001)。これら3種類は形態学的そして成分的に区別可能です。この報告では16ロット中、4ロットにE. ruticarpa、7ロットにE. officinalis、11ロットにE. bodinieriが含まれていることを明らかにしています(混合品であるロットも含む)。中国産呉茱萸の原植物については、おそらく以前よりこのような複数種に由来していたことが推測できます。さらに原植物導入後は日本産呉茱萸が流通したこともあり、当時はE. ruticarpaの不稔性の未熟果実に由来する生薬も存在していたことになります。

 呉茱萸の原植物に付けられた学名も様々な変遷を経ています。「ゴシュユ」は第七改正日本薬局方に、原植物としてEvodia rutaecarpaが収載され、第九改正でE. officinalisが、第十四改正第二追補でE. bodinieriが追加されました。さらに当時、文献的にも混乱していた属名のEuodiaEvodia、種小名のruticarparutaecarpaの問題も解決され、第十六改正より現在の綴りに統一されました(生薬学雑誌、61、93-93、2007)。この学名に付けられる和名も整理されました。『牧野日本植物図鑑』にはE. rutaecarpaの和名としてニセゴシュユが、E. rutaecarpa var. officinalis (=E. officinalis) に対してホンゴシュユがあてられています。このことについて牧野博士は、日本にはE. officinalisの植物は導入されていないが、“officinalis(薬用の)”という学名から、こちらが正品であると判断したと記載されています(植物記、櫻井書店、東京、1943、p330-337)。現在はゴシュユE. ruticarpaとすることが一般的になっています。

 新しい元号の時代になっても生薬の品質は変化し続けます。生薬の品質が変化したとしても漢方処方は安定した薬効を示すように工夫しなければなりません。このような変化に対応するために薬剤師、医師は常々準備をしていなければなりません。呉茱萸は肝、腎、脾などを強く温める薬物として温経湯、呉茱萸湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯などの漢方処方に配合されます。温経湯は婦人病薬として知られ、冷え症や更年期障害などに用いられます。呉茱萸湯は、呉茱萸、人参、大棗、生姜の4味だけの配合ですが、手足の冷えや習慣性の偏頭痛や頭痛などに用いられます。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は霜焼けの特効薬として著名です。このように呉茱萸はその薬効から代替するものが他になく、今後も欠かすことができない重要な漢方生薬です。

(神農子 記)