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生薬の玉手箱

生薬の玉手箱

 【商陸(ショウリク)】  平成29年3月10日号より

基源:ヤマゴボウ科(Phytolaccaceae)のヤマゴボウ Phytolacca acinosa Roxb.の根を乾燥したもの

 商陸は『神農本草経』の下品に収載された薬物で、同書には「水腫、疝瘕、痺躄を主治し、癰腫を除き、鬼精の物を殺す」と記され、古来、利水、消腫を目的に用いられてきました。別名を逐蕩、當陸、白昌、章柳などといい、これらについて李時珍は「この薬物はよく水気を逐蕩するものだから逐蕩という。それを訛って商陸といい、また訛って當陸といい、北方の発音で章柳という」と記しています。現在でも、利水、利尿薬として、水腫脹満、胸脇満悶、小便不利などの症状に用いられ、また、外用薬として癰腫、瘡毒などに応用されています。処方としては牡蛎、沢瀉、栝樓根など配合した牡蛎沢瀉散や商陸膏などがあります。

 原植物の形態について、蘇頌は「人家の園圃に多く生える。春苗が生え、高さ三、四尺、葉は青く牛舌のようで長い。茎は青赤でいたって柔脆である。夏、秋に紅紫色の花が朶をなして開く。根は蘿蔔(ダイコン)のようで長い。八、九月に採る」と記しており、『証類本草』の図からも明らかに Phytolacca 属のものであると考えられ、一般的にヤマゴボウ Phytolacca acinosa Roxb.があてられてきました。一方、蘇敬は「この草には赤、白の二種があって、白いものを薬に入れる.赤いものは鬼神をみるもので甚だ有毒である」といい、韓保昇もまた「赤花のものは根も赤く、白花のものは根も白い」と記していることから、古くから商陸の原植物には2種あったことがわかります。白花のものとはヤマゴボウで矛盾はなく、赤花のものについては牧野富太郎博士はマルミノヤマゴボウ P. japonica の類似品ではないかと考察しています。

 ヤマゴボウは、北海道南西部から九州、台湾、ヒマラヤにかけてまで分布する大型の多年生草本で、高さ 70〜100 cmになる目立つ植物です。茎は直立し、太くて多く分枝し、通常緑色で無毛です。葉も大型で互生し、楕円形あるいは卵状楕円形で、長さ 10〜20 cm、幅 5〜10 cmになります。夏に茎や枝の先に先が細る細長い直立する花序を出し、多数の小型の白花を総状につけます。果実は8個の分果に分かれてでこぼこが目立ち、熟すと黒紫色になり全体に毒々しい感じがあります。マルミノヤマゴボウはヤマゴボウに似ていますが、葉先が鋭り、花は淡紅色で、名が示すように果実が丸くてでこぼこしないのが特徴です。同属植物で近年普通に見かけるのはヨウシュヤマゴボウP. americana L.で、カナダから米国、メキシコ北東部にかけてが原産地で、今では世界各地の荒れ地に帰化して雑草化しています。日本産の同属植物と異なり、茎が赤みがかり、果序が垂れ下がることによって容易に区別する事ができます。中国では「美商陸」と呼ばれて使用されているようで、「美」はアメリカの意味です。また、アメリカでも利水剤として同様に使用され、ハーブ療法士によってリウマチ、水腫、耳下腺炎などに内服され、また乳腺炎に外用されたりしています。

 ヤマゴボウの根には多量の硝酸カリウムや有毒な配糖体のフィトラッカトキシンやミリスチン酸などが含まれます。また、ヨウシュヤマゴボウの葉はケンペロールやクエルセチンを含み、果実にはベタチアニン色素のベタニジンおよびその配糖体の含有が報告されています。

 なお、信州などでヤマゴボウ漬けとして売られているのは真のヤマゴボウではなく、キク科のモリアザミCirsium dipsacolepis Matsum. など、アザミの仲間の根であることはよく知られていますが、名前の共通性が災いしてか、しばしば真のヤマゴボウによる山菜事故が報道されます。根のみならず、芽生え時期にも注意する必要があります。

 日本では商陸の名は『延喜式』に見られ、平安時代には中国からその知識が伝来していたことが伺えます。『本草和名』(918年)には和名としてイオスキが書かれ、その後ヤマゴボウと呼ばれるようになりました。一説に食用として導入されたとする記事もありますが、詳細は不明です。

 

(神農子 記)